褒めたい時に褒めよ

 キリカ様は、言った。

 

「褒めたい時に褒めよ」

 

 ⌘⌘⌘

 

 朝日が気持ちの良い朝だった。この日も僕はキリカ様を褒めて褒められるために働いていた。

 

「キリカ様にお水をお持ちしてちょうだい」

 

 エメリーヌさんは僕にそう命じた。

 

「わかりました」

「暫く時間も開くことだし、キリカ様の話し相手をしてやってちょうだい」

 

 エメリーヌさんは、白いシーツを畳みながらそう言った。

 僕は準備を整えて、キリカ様の自室へと向かった。

 

 ⌘

 

「ああ、水か。ありがとういただくよ」

 

 キリカ様はベッドの上に膝を抱えて座りながら、持っていた本を閉じた。簡易なドレスを着ていて、小さな肩が露出している。

 僕はどぎまぎとしながらも、グラスに水を注いで、キリカ様に手渡した。

 キリカ様は受け取るや否や、一気に飲み干してしまった。

 

「ふふ、はしたなかったかな。エメリーヌにいつも怒られるんだよ。もう一杯いただけるかい?」

「はい」

 

 返事して水差しを傾ける。こぷこぷと音を立てながら、水はグラスを満たしていっぱいになった。


「どうぞお召し上がりください」

「ありがとう」

 

 キリカ様の細い指がコップに触れた。

 

「スヴニール、ちょっと私の話に付き合ってくれ」

「は、はい! 勿論です。大事な僕の仕事です」

「はっはは、そうかそうか。じゃあゆるりとしていくといいよ」

 

 キリカ様はベッドの布をトントンと叩いて指し示した。

 僕は恐れ多いと首を振る。

 

「いいから腰掛けて。こちらにおいで」

 

 キリカ様は有無を言わさない態度で、悪戯げに笑う。

 僕は観念して、少しキリカ様とは距離をとって座った。

 

「ふふふ、そんなに緊張しなくとも良い。取って食ったりしないよ。そろそろアリーシャが次の謁見のための支度をしに来てくれるから、それまでの間、私に付き合っておくれ」

「は、はい」

「話すのなら紅茶が良かったが、お前も飲みなさい。緊張しているだろう」

「ありがとうございます。でも大丈夫です」

「そうか、お前は謙虚だねぇ」


 くすぐったく思って、自分の首を触った。

 

「そうだ、スヴニール。一つ言っておきたい」

「何でしょうか」

 

 鋭い目つきで、キリカ様は僕を見てきた。

 

「お前がそう思わない時、私を褒めないでおくれ」

「は、はい」

 

 微かに違和感を感じた。何かを思い出して話している。私はお前を褒めない、という意味ではないらしかった。

 キリカ様は語り聞かせをするような口調で言った。

 

 ⌘⌘⌘

 

 キリカ様は言った。

 

「褒めたい時に褒めよ」

 

 ⌘⌘⌘

 

「前に心は真心でと言ったろう。褒めたいと思う時、褒めたいことを褒めて欲しいんだ」

 

 キリカ様は片目を閉じて言った。

 

「おべっかも時には必要だがね」

 

 キリカ様はくすりと笑って、僕の頭に手を伸ばす。ぽんぽんと頭を撫でる手がくすぐったい。

 

「褒めたいと思った時に褒めておくれ」

「……はい」

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