褒めはありがとうで受け止めよ

 キリカ様は言った。

 

「褒めはありがとうで受け止めよ」

 

 ⌘⌘⌘

 

 謁見室にはエメリーヌさんと僕と、そしてキリカ様がいた。

 

「エメリーヌ、今日も貴女の仕事は完璧だ。誠に美しいと感じるよ」

 

 キリカ様が言うと、エメリーヌさんは持っていた本をぱしんと閉じた。

 

「当然のことですが、お褒めに預かり光栄ですわ」

「あっはははは」

 

 エメリーヌさんの歯に絹着せぬ物言いに、キリカ様は豪快に笑う。

 僕はそのやりとりに未だにハラハラとして胸を押さえる。

 それが視界に入ったのか、キリカ様は僕に言う。

 

「いいかい、スヴニール、お前も褒めはこうやって受け止めるんだよ」

「い、いや、僕には、とても」

「はっはっは。何も口を悪くしろと言ってるわけじゃない」

「キリカ様」

 

 エメリーヌの鋭い眼差しを片手でひらひらとかわして、キリカ様は言う。

 

「前にも言ったろう。素直な真心で受け止めて欲しいと。その実用編といこう」

「は、はい」

「褒められたら、謙遜で受けてはいけないよ。お前はとても素晴らしいのだから」

「でもそんなことないんです、本当に。僕なんか」

「ほら、それだ」

 

 あっと僕が口を押さえると、キリカ様は諭すように説明してくれた。

 

「あまりにも謙遜して、自分を下げられたり、言葉を受け取ってくれなかったりすると、せっかく褒めたことを否定されたように感じるんだ」

「そうですね……申し訳ありません」

 

 僕の態度にキリカ様は苦笑する。僕は汗をかくばかりだ。まだまだ褒められ係が務まっていない。

 キリカ様は続ける。

 

「それから、私が褒めている時は褒め返さなくて良い。私の褒めがどこかに行ってしまう。だから——」

 

 ⌘⌘⌘

 

 キリカ様は言った。

 

「褒めはありがとうで受け止めよ」

 

 ⌘⌘⌘

 

 キリカ様はエメリーヌさんと目線を合わせて微笑む。

 

「そう言ってくれれば、その一言で私も満たされるから」

 

 ⌘⌘⌘

 

 キリカ様は自室でお休みになると言って、部屋から出ていった後だった。

 

「スヴン」

「はい、エメリーヌさん」

 

 エメリーヌさんは姿勢正しく僕に向き合って立ち、言った。

 

「妙な言い方になるけれど、キリカ様を受け止めて欲しい」

「……受け止める?」

「そう。あの方は、ああ見えて、とても脆い」

「……それは一体、どう言う……」

「またおいおい話しますよ。ともかく、ありがとうと言ってあげて欲しい」

 

 エメリーヌさんは今までに見せたことのない、すごく優しい顔で言ったので、僕はただ頷き、素直に受容した。

 

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