褒められたくば、褒めよ
キリカ様は言った。
「褒められたくば、褒めよ」
⌘⌘⌘
「さて、そろそろお茶会もお開きにしよう」
小さな飴と口の中で戦う僕を見ながら、キリカ様はそう言った。
「ふぁい」
口を押さえて返事すると、キリカ様は楽しげに笑う。
「何でもかんでも褒めればいいというものではないが、これからもたくさんお前を褒めるから覚悟しておくんだね」
僕はドキドキとしながら返事を返す。
「……はい」
僕が頷くと、キリカ様は喜色満面になった。それを見ているだけで、心が温かくなる。
すると、キリカ様は言う。
「あ、でも、これも大事なことだよ」
唐突に、キリカ様は言った。
「褒められたくば、褒めなさい」
ぽかんとしてしまう。褒められ飽きたって言ってたのに。
どういう表情をしたものかと思っていると、キリカ様には僕の表情を呆れと取られたらしかった。むくれ顔で言う。
「なんだい、その白い目は」
一瞬鋭く睨まれた。が、首切り女王にこんなことを言われたら、すくみ上がるしかないようなシチュエーションのはずが、空気は緩み切っている。
侍女たちも緊張感などなく、キリカ様と僕を見守っている。
キリカ様は椅子から立ち上がって、僕のところまでツカツカと靴音を立てながら胸を張った。
「さぁ、褒めよ」
女王の威厳を纏い、胸を張っている。言っていることは無茶苦茶だ。でも、眼差しは真剣だった。
「飽きたと言えど、私の愛しい子にはまだ褒められたことがないからね。私はお前に褒められたい」
一変して、キリカ様は目尻を優しくさげて、微笑まれた。僕にそんな大役が務まるのかと、尻込むけれど、キリカ様の期待顔を曇らせるわけには行かないと思った。
僕は行儀悪いと分かりながらも、少し小さくなった飴を口の端に寄せて言った。
「キリカ様の自信に溢れているところを尊敬しています」
「あっははは、褒めているようで褒められてない気もするがね」
「本当ですよ! 心から思っているんですよ!」
僕は信じてもらいたいあまりに、キリカ様に詰め寄ってしまった。キリカ様はぱちくりと僕を見返していた。すぐに気がついて身を引っ込めた。
「申し訳ございません!」
立ち上がって首を差し出すように、深く頭を下げた。首を刎ねられても文句など言えない粗相をしてしまった!
キリカ様はそんな僕の後ろ頭にそっと手を触れた。なでなでしてくれる手の感触が心地よい。
「ふふふ。わかっているよ。ありがとう、スヴニール」
「そんな……」
まだ出会ったばかりだというのに、すっと言葉が入ってくる。キリカ様にはそんな不思議な魔力があった。
身分不相応だと、わかっていたけど、それでも尋ねずにはいられなかった。
「あの。恐れ多い、ですが、キリカ様のことを、教えていただけませんか?」
キリカ様はキョトンとされた。僕は、えいやと決心して言った。
「褒めるのなら、知らなくてはならない、ですから」
「ふふ。よいぞ、スヴニール。いい子だ」
キリカ様はコロコロとひとしきり笑ってから、ご満悦の様子で言った。
「なんでも聞いておくれ。これからなんでも答えるからね」
キリカ様はにんまりとされ、話を切り上げてしまった。そして、踵を返して離席した。アリーシャさんがそれに続く。僕も自室にエメリーヌさんも戻るように指示された。
だけど、何故かーーーキリカ様の背中を見ていると、胸騒ぎがした。
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