褒めたくば、相手のことを知りなさい

 キリカ様は、言った。


「褒めたくば、相手のことを知りなさい」

 

 ⌘⌘⌘

 

「ではスヴニール。お前のことを教えておくれ」

 

 王座の上のキリカ様は麗しいその眼差しを僕へと注いで聞いてきた。

 

「僕のこと、ですか」

 

 自分の胸に手を当てる。ドキドキと心臓が逸る。もしかして、おかしな発言をしようものなら、僕は自分の首とさよならしなければならなくなるかもしれない。

 僕がキリカ様の思惑を図りかねていると、キリカ様はキッと眉を吊り上げた。

 反射的に身を縮める。罵声を浴びせかけられると思ったが、かかったのは優しい声音だった。

 

「何でもいい。どこで育ったのか。何が好きか、嫌いか。何を見ると嬉しくて、悲しいのか。全て私に教えなさい」


 僕は首を傾げた。何故、僕の事など聞くのだろう。

 表情を読んだのか、キリカ様はにんまりとした。

 

 そして、キリカ様は言った。

 

「褒めたくば、相手のことを知りなさい」

 

 再び目を丸くする。

 

「おおそうか、ここからでは話がしずらいかな」

「え……」

 

 キリカ様はずっと立ち上がると、豪奢なドレスの裾を連れながら、テラスの方に歩いて行った。侍女たちがそれに続く。

 呆然とする僕に向かってキリカ様は言う。

 

「ほら、何しているんだ。こっちにおいでな」

「は、はい……!」

 

 慌ててついていくと、テラスの安楽椅子にキリカ様は腰掛けた。侍女の一人が「アフタヌーンティーのご用意をいたしますか」と、キリカ様に尋ねると、「ああ、頼むよ」と穏やかにキリカ様は頷いた。侍女も進んでキリカ様の世話をしているように見え、怯えてやらされている様子がない。不可思議さに首を傾げながらも席に着いた。


 キリカ様は玉座では姿勢良くしていたが、安楽椅子では体勢を緩めてリラックスした様子で改まって言った。

 

「お前を褒めたい」

 

 キリカ様は安楽椅子の肘掛けに頬杖をついて、にこりと微笑む。

 

「だから、お前をたくさん褒められるように、お前の話を聞かせておくれ」

 

 とても優しい笑みだった。本当に僕に興味を抱いてくれている。笑顔に釘付けになった僕は、くらりとのぼせて後に倒れてしまいそうになる。

 

 この世の悲しみや理不尽を知っても、くじかれることのないような笑みに見えた。

 やはり、首切り女王という渾名と、目の前の女性の姿は重ならなかった。

 

 僕は覚悟を持って、自分の話を語ることにした。

 

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