第6話乳母の長い独り言~母は虐められっ子~


「ですから、若君がお生まれになってくださって神仏に感謝しなければなりません。

帝の、しかも第二皇子をお産みなられたのです。桐壺の更衣様の将来への不安は少し軽減された事でしょう。

幾ら、帝の寵愛著しい桐壺の更衣様と言えども寄る年波には勝てませぬ。

御年十六歳の美しい盛りの桐壺の更衣様ですが、年月と共に容色も衰えていくのは必定。

そうなれば、帝の寵愛も自ずと失っている事でしょう。帝の寵愛を失い御実家の後見も無い桐壺の更衣様が最後の頼れるのは若君だけなのです。

他の更衣の方々と違い、桐壺の更衣様には内裏で味方してくださる方はおりません。寵愛を失った桐壺の更衣様の末路は悲惨なものになる事でしょう。

若君しか御母上を守れる者はおりません」


めっちゃ現実的な事を言ってる。

しかも今の言葉で母親の実家が当てにならない事もしっかり話してるし……。

僕の母親は後宮カーストの最下位なのか。

そんな身分で帝の寵愛を得たらそりゃあ他の妃は面白くない。

寵愛を失ったら余計に虐められる。

それでも子供がいればまだマシなんだろうな。


「巷では右大臣家の女御様がお生みあそばされた一の宮様を差し置いて、若君が東宮におつきになるのではないかと噂されているほどですから」


ん?

右大臣?

女御?

一の宮?

東宮?

どういうこと?


「幾ら寵愛厚い桐壺の更衣様を母君に持たれ、帝から並々ならぬ愛情を注がれているとは申せ、世の中には分というものがございます。それを理解していない女房たちのなんと多い事か。女房たちがもう少し桐壺の更衣様の苦しい御立場を察する事が出来れば宜しかったのですが……。

何故、他の女御様や更衣様を挑発するような態度を取るのか理解に苦しみます。

彼女たちの振る舞いのせいで、弘徽殿の女御様の怒りを買っているといいますのに……その代償を主である桐壺の更衣様が支払われるという事が何故分からないのか……。

不敬な事に彼女たちは今上帝を『桐壺帝きりつぼてい』と表し、まるで桐壺の更衣様の『伴侶』であるかのような物言いを他の女御様方に言い放つ始末」


……桐壺帝きりつぼてい

まって、ちょっと待って!

父親が『桐壺帝』。

母親が『桐壺の更衣』

僕が『第二皇子』

兄弟に『異母兄の第一皇子』

義母に『弘徽殿の女御』

義母の実家が『右大臣』



もしかして『源氏物語げんじものがたり』か!?


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