第2話誕生


――二条の館――



更衣こうい様!しっかり!」


「気を確かにお持ちください」


「難産でございます。母子ともに危険な状況でございます!」


祈祷師きとうしを増やせ!急げ!!!」





――御所ごしょ――



更衣こういの様子はどうなのだ?まだ生まれないのか?」


「御祈祷が上手くいっていないようです。

強い力を持ったものに取り付かれているようで……更衣こうい様の産み月が早すぎる事も原因のようでございます」


「なに!?調伏ちょうふくできないのか!」


「どうやら執念深いものたぐいのようでして、更衣こうい様から離れようとなさらないのです。上手く“寄坐よりまし”に取り付いてくれればよいのですが……」


更衣こうい……」




――内裏だいり――



「例の更衣こういの出産が思わしくないようですわ」


「なんでもものに取り付かれているそうですわよ」


「まあ、恐ろしいこと。一体のでしょうね」


「嫌ですわ。を恨むお方は大勢おりましてよ」


「わたくし達を差し置いて帝を独占した罰ですわ」


「後ろ盾の無い更衣こういの分際でありながら図々しくも帝を誑かした女狐ですもの。更衣こういの本性がものたぐいであったとしても何もおかしくありませんわ」


「その場合、やはり『九尾きゅうびの狐』かしら?」


妲己だっきの生まれ変わりと申されてもおかしくない振る舞いでしたものねぇ。きっと、に違いありませんわ。主上しゅじょうを肉欲でもって惑わしたなど化生に相違ありません」


「浅ましいかぎりですこと。下々の者は、わたくし達のような高貴な女人には分からないを持っていると聞きますもの。もそれ相当の手慣れなのでしょうね。淫蕩いんとうの限りを尽くしたそうじゃありませんか」


「聞いた話では、帝に怪しげな薬を使って獣のように目合まぐあっていたとか。帝付きの女房がお二人を引き離さなければ一日中さかっていたそうですわよ」


「おぞましいこと。人の所業とは思えません。これから生まれてくる御子は果たしてのかしら?」


「異形の姿形でもって生まれてくるのでは?例の更衣はのようですから、我が子の姿を見て、失神するのではないかしら?」


「それこそ神罰ですわよ。今まで身の丈に合わない扱いを受け続けてきたのです。当然の報いというもの」


「ほんに、たかだか更衣こういの身分で身の程知らずな夢をみたのです。ここは夢のまま終わらせて差し上げるのが親切というもの」



「「「「「「ほほほほほほほ」」」」」」







――二条の館――




「お生まれになりました!若宮でございます!第二皇子の誕生でございます!!!」








◇◇◇◇◇


御所:天皇が住む場所

女御:皇族や大臣クラス娘がなる。中宮の下の地位。

更衣:殿上人の娘がなる。女御の下の地位。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る