第19.5話 決して文字数稼ぎなんてことは無い
今日は藤宮家にお邪魔する日、小学生における遠足かのようなテンションで早く目覚めてしまう。
適当に時間を潰さなければならないわけだけど、どうしたものか。選択肢としては小説を書くこと、それから修に色々と話を聞いてもらうこと、あとは……まあ動画でも観ながら時間を潰すぐらいかな。
最後はないとして、現実的な択は修だけしかないか。
『修に頼みたいことがあるんだ』
さて、まずはここから返事を待つのみだ、と思っていたらすぐに返ってきた。むしろ待っていたんじゃないかというほどの早さで男の僕でも怖く感じてしまう。いや、まあ親友からのメッセージだからそれが理由かもね。
『なんだ?』
『実は今日、藤宮とまた会う約束をしたんだけど、ちょっと前とは訳が違ってさ、相手のホームグラウンドなんだよね』
さすがに家とは言えないのでそれっぽくしておく。多分、修ならこれを変換して考えてはくれるはずだ。
それぐらいの連携は朝飯前だというぐらい、僕たちは深い絆で結ばれているはず。
『は? なんそれ』
おーい、完全に振りになっちゃったよ。てか、絶対わざとじゃん。言わせようとしているじゃん。
『頼むよ、修』
これでどうだ。
『しゃーないな。その代わり、今回は特別授業だから何かしら報酬が必要だぞ』
『わかった。それはまた考えておくからお願い!』
『よしっ、任せろ。それで相手のホームでどう動くべきかだったよな』
本当に調子がいいんだから。まあ、これで実際役に立つなら出費なんて痛くも痒くもないけど。
経験で言うと、楓恋と何度も家を行き来しているからお初もあるはず。こういう歳の割に経験している人が近くにいると頼もしいなぁ。
『いいか? まずは主導権を握ろうとせずに様子を窺うんだ。相手がどんな意図を持って接してくるのか分からないからな』
『なるほど。見から入るんだね』
この理屈はわかる。結局、無理に突進しても何も分からないままではそもそもそ対処のしようがない。
大人しく機を待つぐらいの精神力がないとダメだというわけだ。
さすが恋愛経験者、波村修!
『見? よく分からんけど、それでいいよ』
あれー? 恋愛マスター? そんなんじゃ、全く役に立たんではないか!
『まあとにかく、遠くから見守るような感じでいるわけよ。そうして、物事の本質を見抜くってわけ 』
言っていることは立派だが、どうしてだろうかこんなアホらしく見えてくるのは。
まあでも、大まかに一点アドバイスは貰ったし、ここで終えておこう。
『了解。とりあえず作戦の一つとして、使うかも』
『おう。頑張れよ!』
頼りになるのかならないのか、分からないけど一応メモしておいて、次の候補を探そう。
修は逆に知りすぎて僕との経験値の差を本人が分かっていない可能性があったから少し思考を変えてみる。
渡木のような未知数の方が案外いいのかもしれない。同じ目線に立って意見をしてくれる可能性があるからな。
『ねぇ、話があるんだけど』
普段呼びかけに対して反応が遅い渡木だけど、今日に限っては例外みたいだ。冗談めかした言葉使いじゃなかったのが興味を引けたのかも。
『なんだ?』
『実は今度さ、女の子と遊ぶんだけど』
『なに!?』
ちょっと待って食い付きが良すぎるよ。
『おまえも波村側に行っちまうっていうのかよ? 俺を一人にして……』
ほらー、やっぱり嫌な予感がしたんだよ。勝手に被害妄想しているし、もしかしたらこれが現実になり得るからふざけるなとも言い難い。
一番厄介な反応が来たなぁ。
とにかく一旦落ち着かせよう。
『別に僕がそのままハッピーエンドを迎えるなんか分からないんだから、早とちりはやめて。これでもし僕が失敗したらどうしてくれるんだ』
『それもそうだな。すまん』
冷静になるのが早い。もはやこのオンオフだとただの怖い人にしか見えないんだけど。
『それで、女の子と遊ぶって何するんだ?』
『いや、それをどんなのがいいか聞こうとしたんだんだけど』
これはハズレくじかな?
『なるほどな。なら一つだけ言えることがある』
おっ、これは僕が早とちりだったかもしれない。渡木も渡木なりに何かしらの知識があるみたいだ。
『絶対に一発目で下を匂わせるような発言はするな。嫌われるぞ』
『そりゃそうでしょ。常識だよ、それ』
これをアドバイスとして伝えてくるってことは渡木のやつ、まだ高一になったばかりなのに初デートで匂わせたことがあるって言うの?
相手がいることは凄いんだけど、全く意味をなさない答えだなー。
『ちなみに渡木はそれでどうなったの?』
『俺はだな、出会って三十分ほどであがっちゃってうっかり下の話をしてしまい、その場で即終了。予約していた二人分のレストランのコース料理を一人で平らげたぞー。ちなみに凄く美味しかったから得した気分になった。本当だからな?』
いやいや、むしろ最後の一言で悲しさ滲み出ちゃってるのよ。それにしてもこの年齢でレストランのコース予約していたってどれだけ本気だったんだ。
まあ、あれだけお金持ちな家ならむしろそれでも普通ぐらいなのかも。奢られる側からしたらどちらにせよ嬉しいけど。
『ヤバい。思い出したらなんだか凄く虚しくなってきた。おい、小笠原のせいだからな。責任取って俺の話をもっと聞け!』
『なにその理論。まあ、今暇だから別にいいけど』
『言ったな? ここから三時間コースだ!』
この時はまさか三時間も話すことなんてないだろうと思っていたけれど、気が付けば陽が真上に昇り、日光がウザイほどその存在を主張してきていた。
その上、話は終わっていない。
『それでだな、俺が欲しいって言っていたプレゼントを買ったのに、翌週にはもう使ってなくて聞いたら飽きただぞ?ありえないだろ、そんなすぐブランド品なんか飽きるもんかよ。絶対金目当てじゃんってなって別れたんだよ』
『それは大変だったね』
『だろ? てか、もう打つの面倒くさいから電話でもいいか?』
うーん、これを許可したら更に被害を被りそうだけど、まあ時間潰しにはもってこいか。それにこう言ったらなんだけど、殆どが渡木が損している話で気軽に笑えて面白い。
まさかこんなにもエピソードトークを持っているとは思っていなかっただけに時間潰しという点で言えば、大当たりだったみたいだ。
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