第18話 頼りになる存在はいつも近くに
ファミレスでとりあえず各々が食べたいものを頼み、ドリンクバーでジュースをいれて戻ってから早二十五分。
適当に会話をしながら持ってこられた料理を平らげ、ついさっき皿が回収されたところだ。
「ああ、食った食った」
静流呼びされて気分が舞い上がっちゃったのか、僕の隣には静流、そして対面に修が座っている。ここまでわかりやすいと友達としてはやりやすい。
「そういえば、波村から聞いたけど、この前のデートはどうだったんだよ」
「ちょっ、修、話したの?」
「当たり前だろ。隠すようなことでもねぇし、渡木だけ仲間外れは違うくね?」
「それはそうだけど、てか、そんなに聞きたいもの?」
その問いに二人はうんうんと頷きを返してきた。
なんともタイミングが悪いなー。
「いやまあ、普通に学校終わった後喫茶店に行って、それから僕の家で勉強会を──」
「家に連れてったのかよ、おい!」
「──こ、声大きい!」
今の瞬間視聴率(ファミレス内調べ)八十%越えだったよ、絶対。言ってることもあれだったし。恥ずかしくって堪んない。
「お、おおすまん。それでどうして家になったんだよ。もしかしてその相手Ⅿ凄く乗り気だったとか?」
「いや、それが本当はここ使おうとしたんだけど、人が多くて集中できなさそうだったからそう提案したんだ。別に乗り気というよりは事情があるからついてきてくれた感じだったよ」
「へぇー、それでもいいじゃん。二人きりだろ? 最高じゃねぇかよ」
心底羨ましそうに言うからここから先の展開を考えると面白い。
「いや、それがさ、本当に冗談じゃないんだけど、僕がドリンク用意している間に隠しきれてなかったエロ本見られて……」
「お前、まさか……」
早くも察した静流は迫真の演技。修は笑いをこらえるように口元を押さえている。
「そのまさかだよ。なにもなく滞在時間約十分、帰ってしまったんだ……」
「なんだ、まあ、気にすんなや」
「やめてくれっ! その気遣いが逆に胸に刺さる!」
「じゃあ、てめぇ何してんだ馬鹿野郎!」
「それはそれで違くない⁉」
そんな馬鹿げたやりとりをして笑う。ああ、幸せだ。
「んで、その相手っていうのは誰?」
「いや、言うわけないでしょ。さすがにその子の名誉もあるし」
「チッ、引っかからねぇか。まあでも、それはそれで良かったんじゃない」
「なにも良くはないよ。その後当たり前のように気まずくなったし」
修はその相手がだれか分かっているけど口にはしない。ただ僕たちのやりとりを楽しそうに見守っているだけ。そんな彼女持ちで余裕のある修に聞きたいことがある。
「そのことで二人に質問があるんだけど、もし気になる子がいてさ、その子が自分とは真反対なタイプの男と仲良さそうに話しているところを見たとする。そうしたらそこからどう進めていく?」
「つまりは龍斗はそのときの女子のこと、気になってるんだ」
「うーん、気になってるっていうか、凄くいい子でもう少し深く関わりたいなとは思っているけど、まだそこがどうとかは分からない」
「なるほどね」
隠しても面倒なので修にはバレるが話を進めた。僕たち二人の間には絶対的な絆があるからここは疑いようがない。
「ちなみに俺が龍斗なら関係なく押すね。誰かに気を遣ってなんかいたらその人の一番にはなれないし、結局表面だけの付き合いになっちゃいそうだから」
なるほど、修らしいな。そういえば今の彼女の楓恋ももうすぐ付き合うところっていう相手がいたのに割って入って奪い取ったもんね。まあ、結局はその相手が修の存在を見て逃げたようなもんだったけど。
さすがにあそこまでの勇気はまだないにしても引くなってことだよね。
「それで静流は?」
静流に関しては恋愛面の情報がないからわからないけど、一回ぐらいは付き合っていそう。
「うーん、俺も同じかな。むしろ奪ってやるぐらいの気持ちでいたほうがいいんじゃないか? もちろん口先だけじゃなくて、俺も中学三年のときに彼氏持ちだった子を奪ったぞ」
「うわっ、そこまでいくと凄いね」
「まあ、褒められたもんじゃないとは思うけど、強気でいないと引き寄せられるはずだったものを手放してしまうかもしれないだろ」
「それはまあ、間違いないね」
まさか近くにいる二人がこんな肉食というか積極性に尖りすぎた男だとは思ってなかった。ただそれでも、やっぱりこういう思考は持っていた方がいいんだろうな。
実際に奪うかはともかく、奪われないように。
「ありがとう。すこしずつ努力してみるよ」
「そうだな。急に変わったら豹変したみたいで怖いから、少しずつ見せていけばいいんじゃないか」
ただ問題点がひとつあって、藤宮がそもそも僕のことを嫌っている可能性が高いということだ。
キモいと思われているし、勘違い馬鹿だと思われているかもしれないし、あれ? これもう既に未来なくない?
てかそうだよ。そもそも僕がなぜふて寝したのか、その理由はあの現場を見てしまったわけで、あの会話からしてもうダメじゃん。絶対小説のことも変なやつだって思われてるし。
……でも、ここで引くなってことだよね。せめて当たって砕けろ、それぐらいの前向きさで向き合えって。
そこからは多少弄られながらも修が楓恋に殴られた話や静流の乳輪が濃いなどという馬鹿げた話で盛り上がった。
「じゃあな、またテスト終わったらカラオケでも行こうぜ!」
「うん、またね」
「じゃあなー」
店を出て改札で静流に別れを告げ、修の家まで向かう。
「それにしても、龍斗から恋の相談受けるとはなー。しかも相手が藤宮か。なかなか難しそうだけど、展望はあるのか?」
「どうだろうね。正直なところ言うと、十%もあるかないかだと思う。いや、もっと低いかな。あと恋愛までは未だいってないから」
「どうせすぐそうなるんだから恋で間違いないだろ。わざわざ友情なんかでそこまで悩まねぇって」
その理論はあながち間違えではないだろうけど。つい最近榮沢さんへの恋情が剥がれたばかりだからね。いや、そもそもあれを恋情と呼んでいいのかな? むしろ憧れに近いというか、希望の押し付けだったかも。
そう考えれば今持っている藤宮への気持ちを恋と形容してもいいんじゃないか。
「……たしかに」
「だろ? まあ、それでそんな低い可能性でも俺たちに話したいぐらい気持ちが強いなら諦めずに行くべきなんじゃないか?」
なんだろう。夜空が綺麗で親友との帰り道。恋愛に不慣れな男が相談してそれに真摯に答えてくれるなんてシーン泣けてくるね……。
「とりあえず、その現場を見てしまったことは伝えずにこれまでよりはっきりと接してみるよ」
「そうだな。それがいいと思うぞ。にしても、本当に龍斗からこんな真剣な話を聞けるとはな。嬉しい限りだよ」
言葉の通り表情は明るく、笑みがこぼれている。なんだかこっちまでつられてニコニコしてしまうな。
「本当に偶然の重なりっていうか、奇跡が連続したみたいに出会いがあったから神様のおかげだよ」
「良かったな、愛されてて」
「だね。なんだか主人公になったみたいだよ」
「おっ、今度そういう小説書いたらどうだ?」
「ふふっ、いいかもね」
まあ、もう書いてるんだけど。
いやー、それにしてもこういう何も考えなくて済むときがなんだかんだ楽に幸せを感じられる。榮沢さんにしても藤宮にしても、それから花房さんにしてもそれぞれある程度の緊張感が含まれちゃうからね。
「じゃあ、今日はこの辺で」
修の家の前で今日もお別れ。
そこから自宅までの間にちょっと藤宮に連絡でもしておこう。
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