第11話 オシャレもデートも全力で

 藤宮とのふわふわした勉強会の翌日、事前に言っていた通り今日は修たちとの時間を過ごす。むさくるしいところですがと通されたのは渡木の家だ。

 自転車で5分ぐらいしかかからないほど学校の近くに住んでいるから選ばれたわけだが、平屋で広く見るからに裕福なことが分かる雑貨や絵画が廊下に飾られている。


「この部屋で待ってて。飲み物持ってくるから」


 恐らく渡木自身の部屋だろう。空気洗浄機が部屋の隅にあって男臭さが軽減されている気がする。


「ジュースで良かったよな?」

「僕は大丈夫」

「俺もそれで頼むわ。あと、先にお菓子を龍斗と買っておいたからそれを出すための皿もあったら助かる」

「了解」


 扉が閉められたのを確認して内装に目をやれば、マットレスは厚く反発も気持ちよさそうだし、テレビは十分な大きさでその前にいくつかのハード機が置かれて充実といった様子。僕が基本的に得た金を小説や創作術等の教育に使っている偏った人間だから羨ましいとは感じないけど、普通に一種の部屋として見たとき楽しそうだなと思う。

 家具も適度な距離感で散りばめられていて圧迫感がない。机やテーブルとブラウンを基調としたインテリアに統一性があっていい感じ。

 ジロジロ観察し続けるのもなんだし、意識を別の方向に向けよう。

 それにしても普段はここまでてきぱきと動く印象のない渡木だが、自宅で逆にしっかりとしているというのは面白い一面だ。もしかしたら今日はお仕事でいらっしゃらないみたいだったけど、両親が厳しい方なのかもしれない。

 まあ、そこまで踏み込むつもりはさらさらないからどうでもいいけれど。


「そういえばさ」


 胡坐あぐらをかき、リュックからポテチやチョコを取り出して一旦テーブルに置きながら修が話しかけてきた。


「最近、楽しそうじゃん。昨日いた二人とどっか遊び行く約束でもしたのか?」

「そんなわけないよ。どっちもなんて無理無理」

「もってことは、どっちかとは出来たってことだな」


 ニヤつきながら何かを分かったかのように頷く修。嫌なところに目をつけられてしまった。


「言葉狩りだよ。まあ、もう何言っても信じてもらえないだろうから本当のこと話すけど、藤宮と勉強会のためにファミレス行くってだけだよ」


 実際は二人とも約束はできているし、藤宮とのことで言えばメインは喫茶店になりそうだけどそこまで話してしまうと無限に追い詰められそうで制御しておいた。

 そんなものかよと修は残念そうにしているから、この判断は間違ってはいなかったみたいだ。


「まあでも、龍斗から恋の香りがするだけで俺は嬉しいわ」

「別にそんな感じじゃないけどね」

「そうか? 噂で耳にした限りだと藤宮は最近彼氏と別れたみたいだから、次の候補を見定めてるところかもしんねぇだろ。龍斗はいつもおどおどしててせっかくの見た目を活かしきれてないから、ここで一回遅咲きながら高校デビューしてみるのも悪くないんじゃないか?」


 これまでなら、それもそうかと笑って冗談めかしく終わらせていた修がここまで言ってくれるというのは、その噂の信憑性が高い可能性がある。でも、それなら僕の誘いをそう易々と受けた理由が分からないし、気に入っては貰えているのかもしれないけど学校帰りに周囲を無視した提案をしたのはやっぱり間違いだったかな。

 今さらあの話はなしだなんていう気はないにしても、申し訳ないことをしたかもしれない。


「そのデビューって印象を変えるために髪型整えたり、アクセサリーで装飾したり、性格自体を頑張ってかえてみたりするやつだよね。そこまではしなくていいかなー」

「たしかに今更それひとつで変わるとは思わんが、プライベートと学校でのギャップはあって悪いことはないぞ。特に龍斗みたいに多く他人と関わるタイプじゃない人間なんて第一印象でこういう人だって断定されたまま更新されていないからな」

「そこまではっきりと言われると辛いなぁ」


 逆にここまで言われて腹が立たないのは修ぐらいだからありがたくはあるんだけど。それに言っていることは確かにって感じ。藤宮に限らず、女の子に良い姿は見せたい。

 せっかくアドバイザーになり得る男が近くにいるんだから使わない手はないか。


「ちなみに修はさ、どういう格好で相手が来たら嬉しいの?」

「どうして男目線の意見なんだよ。それともあれか? 僕と修は恋人ぐらい仲が良いですってアピールか?」

「どんな発想だよ。ただ単に女の子目線で話してほしいってことじゃん」

「ハハッ、わかってるって。まあ、それで言うと頑張りすぎてるのも引いちゃうかもなー。イメージが無さ過ぎて無理してる雰囲気が満載ってのがきついっていうか、龍斗で言うなら可愛いに寄せたほうがいいんじゃないか? オーバーサイズの服とかクローバーのペンダントとかそういう方向で」


 なるほどね。

 ガラっと変わると拒否反応を起こしてしまう気持ちは分かる。それに自分に合うものを理解しているって素敵だし。

 修に先に聞いておいてよかったな。


「ありがたい話を聞けて感謝しかないよ。それでさ、お願いがあって」

「一緒に見に行こうってところか?」

「そう。ちゃんと僕が選ぶからどう映っているのか外からの意見が欲しいんだ」

「いい心がけだな。なんなら今週の土曜日にでも行くか?」

「いや……その、凄く言い難いんだけど」

「ん?」


 まさか明日その約束があるだなんて想像もしていないといった様子の修は首を傾げている。

 多分今すぐなんて言ったら驚くんだろうなぁ。


「今日この後がいいな」

「おっ、いいね、そういう前のめりな感じ」


 あれっ、思っていたより好感触。


「ただ、せっかく渡木が呼んでくれたからな。時間は気にしなくていいだろ?」

「うん」

「なら六時ぐらいまでここで遊んで、そこから行こうぜ」

「わかった。ありがと」

「親友の晴れ舞台だかんな。俺も力になりたいってわけよ」


 本当修はいい奴だな。僕だけじゃなくて渡木まで配慮して進めていて、そりゃここまで気配りのできる格好良い男がモテないわけないって感じ。運動が出来て見るからにスタイルの良さが際立っているから尚更だ。

 それからドリンクを持ってきてくれた渡木を含め三人でゲームをしたリ、学校のことでおしゃべりしたり、実は渡木も恋に悩んでいるようで僕のことは隠しながらその話を聞いてみたりと盛り上がった。

 予定から少々時間は遅れたけど、楽しい時間を過ごせたから後悔はない。特に門限のない僕も修も気にすることではそもそもないんだけど。


「それじゃあ、行くか」

「うん!」


 電車で三駅先にある大型ショッピングモールに向かう。

 普段修が使っているような部類とは今回求めているものは違うのに、現地に向かう途中に調べてくれていたおかげで問題なく進む。

 飽きられないよう服を数着、アクセサリーも数種類買った。今年もらったお年玉はおろか、ここ二、三年分使ったんじゃないかというぐらいの出費だったけど、これまであまり触れてこなかった分楽しめた。明日、藤宮がどんな反応をしてくれるのかワクワクする。


「髪もある程度整えていけよ。折角の着こなしが無駄にならないようにな」

「言われてみれば、ヘアスプレーも持ってないかも」

「マジかよ。ワックスぐらいはあるよな?」

「持ってはいるんだけど、お父さんのだからついでに自分の為にも見ておきたい」

「そっか。じゃあ、もう一軒回っていこうか」


 疲れているであろう身体をそれでも動かしてくれる修に感謝して付き合ってもらう。さすがにセットまで当日してもらうのは気が引けるからお母さんにお願いするとして、ここまでは全力で甘えておこうかな。

 そうして一通り買い終えて帰宅。先に修の家で別れ、今日はありがとうと伝える。頑張れよと疲れを見せない笑みで手を振って去っていくその姿は格好良さの塊で、男の僕でさえ惚れてしまいそうだ。

 あんな風になれるとは思わないけど、少しでも近づけるよう頑張ろう。


「ただいまー。お母さん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」


 服を選んでいるときからテンションはあがりっぱなしで家に着いても収まりを知らず、すぐに明日のことを話した。

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