昔のお菓子と風に揺れている雑草
「ナズナは一体何者なんだろう?」
僕は自室の天井を仰ぎながら、彼女のことを考えていた。
ナズナと会ってから天井を見ることが増えた気がする。
いや、違う。天井を見ているのではなく、自分の思考と向き合うことが増えたのだ。
今まで海に浮かぶクラゲのようにただ流されるまま生きてきたが、今ここに意識が芽生えた。
そう。僕は進化した!
って何を考えているんだろう。
正気に戻った僕は枕元にあったスマホを手に取り、写真フォルダーを開くと今まで撮った写真を見る。
青々しい田んぼ。
雄大にそびえる山。
それを染め上げる夕日。
何度も見た景色だ。
数えきれ程、何度も何度も。
なんで僕、そしてナズナはこの景色を何度も見ているのだろう。
何もあのあぜ道である必要はない。
なんたってあそこには何もないから。
まぁ、あのあぜ道が存在しなければ僕とナズナは出会うことも無かったし、あそこだったからナズナと僕の接点ができたとも言える。
もしも出会いの場所が違う場所だったらまったく違う関係になっていただろう。
それこそお洒落なカフェなんかで出会ったとしたらただの他人のままだったと思う。
ショッピングモールの帰り道。いつものようにあのあぜ道に僕とナズナはいた。
出会いも交流の場所も、集合場所も解散場所もいつもあぜ道。
あのあぜ道には一体何があるんだろう……。
少なくとも僕にとってのあの場所はナズナがいるだけの場所。
それ以上でもそれ以下でもない。
でもナズナは……。
もうやめよう。
僕は思考から抜け出すためにベッドから起き上がると、部屋のカーテンを閉め家族がいるリビングへと向かった。
月曜日。
ナズナとショッピングモールへ遊びに行った二日後。
僕はまたあのあぜ道に足を向けていた。
昨日は家族と買い物の予定が入っていたので、あぜ道に行くことはできなかったが、きっとナズナは昨日もあのあぜ道に居ただろう。そしておそらく今日も。
いつものように少し離れた場所に自転車を停めると、舗装された道路から砂利道に入る。
そして、いつもの場所に着くと見慣れた姿が見えてくる。
「あ、一昨日はありがとうね」
ちらりと視線だけを僕に向けて挨拶をするナズナ。
「こちらこそだよ。一昨日は大丈夫だった? 結構遅くなったから心配してたんだ」
一昨日。
僕とナズナはこのあぜ道で解散した。
それはいつも通りのことで、逆にそれ以外の場所で集合したことも解散したこともないのだが、一昨日はゆっくりし過ぎてだいぶ遅い時間の解散になった。
僕は家の近くまで送って行くことを提案したのだが、それをナズナは拒否。
それでいつも通りこの場所で別れたのだ。
「大丈夫だったよ。慣れた道だし」
素っ気なく言うナズナ。
今日も今日とて平常運転。
「そんな心配よりも自分の心配をした方が良いんじゃない? ほら、キミって結構可愛い顔しているから」
僕の方に振り向きながら言葉を続けたナズナ。
うん。やっぱり平常運転だ。
でも……。
僕はナズナの言葉に反応する。
確かに僕は童顔だし、少し前には知らないおばあちゃんに女の子と間違われたことはあったけど、断じて僕の顔は普通だ。
「僕は平気だよ。それに僕の顔は普通そのもの」
「ふふ。そうだね」
なんでもお見通しとでも言いたそうな表情、そして嫌な笑みを浮かべるナズナ。
負けた気がする……。
でもここで相手をしていてはずっと弄られるだけだ。
僕は話しを変えることにする。
「……そう言えばなんだけど、ナズナは一昨日買ったお菓子はもう食べたの?」
「え? まったくキミは……。まぁいいや。少しだけ食べたかな。流石にあの量は数日は消費しきれないからね」
急な話題転換で驚くナズナ。
無理やりな話題転換だったが、弄られ続けるよりもマシだ。
僕の挙動に笑いを堪えているようだが、ここはスルーして会話を続行しよう。
「まぁそうだよね。僕もまだ一部しか開けてないよ。それでね、買ったお菓子を家族と食べたんだけど、お母さんが懐かしいって。結構昔のお菓子みたいだけど、良く知ってたね」
僕は昨日家族とお菓子を食べたことを思い出しながら言う。
駄菓子屋に売っていたお菓子は結構古い物も多かったようで、お母さんとお父さんは昔話に花を咲かせながら食べていた。
二十年以上前に良く食べていたとかなんとか。
当然ながら僕はそんな昔のお菓子は知らない。
しかしナズナは知っていた。
その事実に対して僕は単純に凄いと思ったのだ。
「……。まぁね。ほら、私ってお菓子好きだから」
「そうだね。一昨日の様子を見れば」
僕は一昨日のナズナの様子を思い出す。
なんというか新鮮だったな……。
「そうそう。だからお菓子の知識は結構あるってわけ」
オーバーリアクション気味に威張るナズナ。
本当にお菓子の事になると性格が変わるな……。
「なるほどね。そんなに好きなものがあるって良いね」
「そうかな? ……まぁそうか。キミは? 何か好きなものとかないの?」
「あんまりないかな。趣味もこれと言ってないし、好きな食べ物も特にない。強いて言うならラーメンは好きって感じかな。ただ、それもただの好みってだけで県外まで食べに行きたいとかは無いし」
自分で言うのもあれだけど、僕は寂しい人間だ。
何かに全力で取り組んだこともないし、何かに熱中したこともない。
「そっか。まぁ私も似たようなものだよ。ただお菓子が好きってだけ。私はその辺に生えている雑草みたいなものだからね。雑草は自分の力では何もできないから……。だからね、私は風にでも揺れているのがお似合いだと思うんだよ」
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