ナズナの反撃


「ナズナ……。ここは……」



 僕はできるだけ周りを見ないように、全力で床を凝視する。

 ミス一つで僕は社会的に終わってしまう……。



「そんなことどうでも良いよ。それで、キミはどっちが良いかな?」



 僕の真正面。

 ナズナは小さな布を両手に持ち、僕に質問してくる。

 片方は可愛らしいピンク。もう片方は紫の少し大人びたもの。


 

「どっちも良いと思うから、早くここを出ようよ!」



 選択をミスしたら終焉。

 その事実に恐怖を感じる。



「そんなこと言わないで、ほら、どっち?」



 いつも通りに僕をいじるナズナ。

 顔は見ていないが、簡単に表情を想像できる。



 さて、ここまでの会話。そして今の現状を見れば、僕がどこにいるか分かったと思う。

 そう……。僕は今ショッピングモールにある女性ものの下着売り場にいた。


 何故かという理由は僕自身分かっていない。

 ただナズナに連れてこられたのだ。



「ねぇ、ナズナ……」



 懇願することしかできない僕。

 なんとも情けないが、僕に許された行動はこれくらいだ。



「そっか。キミはこっちか~」



 ナズナは大人びたデザインをしている紫の下着を僕に見せながら、ご機嫌な様子。

 彼女は本当に良い性格をしていると思う。


 

「で、実際キミはどういうのが好きなの? 男の子って結構あるんでしょ? フェチって言うのかな? 私は良く分からないけど、こだわりがあるって聞いたことあるよ」



 と、手に持ったものを見ながら言う。


 

「僕はそんなの無いよ!」



「ふうん。本当かな? ねぇ、これ私に似合うと思う?」



 下着を体に合わせると、僕に顔を近づける。

 思わず想像してしまいそうになるが、それをグっと押し込んで、僕は床から天井に視点を移す。



「あらら、顔赤いよ?」



「それはナズナが!」



「私が?」



 ナズナはニヤニヤと口角を上げながら、僕に問う。

 この返答をミスれば、またバカにされる……。



「なんでも無いよ! ほら、そろそろお昼食べに行こうよ!」



 僕は返答を選択することなく、敵前逃亡した。





 そんなこんなでお昼。

 僕達は食事するお店について色々と悩み、相談した結果、お互いに好きなものを食べられるということで二階にあるフードコートを訪れた。


 しかしこれは……。


 子供を連れている家族や、カップル。さらには学校のグループと思われる集団。

 多くの人がフードコートに設置されているテーブルに着いていた。


 僕とナズナは多くの人で賑わっている中、空いてる席を探し、たまたま空いた窓際のポジションを取ることができたので、そこに二人並んで腰を下ろした。

 あぜ道で食事したときのことを思い出す。

 向かい合うよりも、並んでいる方が僕達らしいのかもしれない。


 

「席取れて良かったね」



 そう言いながらナズナは手に持った小さな鞄を足元に置く。


 

「そうだね。少し時間をずらしてもこんなに混んでるって思ってなかったよ」



「ほんとそれ。思っていた何倍も人が多い」



「田舎だからね。しょうがないよ」



 僕がそう言うとナズナは「そうだね」と同意を示す。

 田舎というのは中々に不便な場所で、普段は人の往来が少ないが、そのぶん商業施設に人が多く集まる傾向にある。

 なにせお店が少ないから。

 都会ならば、分散するところが田舎では一点に集まるのだ。



「荷物見ておくからナズナから注文してきて良いよ」



「了解。それじゃささっと注文してくるね」



 ナズナは足元に置いた鞄から財布を取り出すと、露店のように並んでいるお店に向かって行った。


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