【完結】スズランの娘と幸せのリボン
いろは えふ
スズランの娘と幸せのリボン
あるのどかな町に、とても踊りの上手な娘がいました。名をミュゲといって、純白のリボンを身に着け、その不思議な力で人々の願いを叶えながら暮らしていました。
とても心の優しい娘なのですが、人々の身勝手な願いを叶えるたびに、娘の顔は、ガマガエルのようにどんどん醜くなっていくのでした。
ある日娘が山奥の小屋へと帰る途中、泉の水で喉を潤そうと立ち寄ると、そこには美しいスズランが咲き誇っていました。
「なんて綺麗なのかしら。それに比べて私の顔は……でも願いを叶える事でしか私は喜んでもらえない……」
娘が唇を引き結んで泉から顔をそらすと、森の奥から苦しそうなうなり声が聞こえます。娘が不思議に思い歩いていくと、そこには弓で左腕を射られた真っ白なドラゴンが、うずくまっていました。
「まあ! 大変っ! すぐに手当てをしてあげるわね」
娘はドラゴンへとかけよると、矢を引き抜き、傷口を洗って、大切なリボンを髪からほどいて、ドラゴンの左腕の傷口へと巻いてやりました。
しかし手当てが終わったドラゴンは、娘の顔に怯えてしまったのか、そのまま遠くの山へと飛び去ってしまいました。
「ああ……やっぱりこんなに醜くてはね……」
娘がため息をついてうつむくと、そこにはスズランのブローチが落ちていました。
「なんて可愛いのかしら」
娘はブローチを拾うと、大切にしまって、家へと帰って行きました。
次の日ブローチを身に着け、いつも通り町の大通りでおどっていると、一人の男が大声で娘を指さして叫びました。
「おい、あの娘。いつものリボンをしていないぞ!」
「本当だ。願いを叶える力はどうなった?」
「それがなきゃ、ただの醜い娘じゃない!」
男の言葉をきっかけに人々は口々に罵声を浴びせ、娘に石を投げつけました。その一つが娘に当たって、娘の額には血がにじみました。
人々の心ない言葉にひざを折った娘は崩れ落ち、噴水に映る自分の顔にとうとう泣き出してしまいました。
娘の涙がスズランのブローチに伝うと、澄み渡る鈴の音が響いて、立派な白いドラゴンがどこからともなく現れました。ドラゴンが凍える息を吐き、町と人々はたちまち氷に閉じ込められてしまったのです。
「やめて! ドラゴンさん! きっと話せば分かり合えるわ!」
娘がドラゴンの左腕のリボンを空へと投げ、祈ると、リボンの力は消えてしまいました。
身勝手な願いが娘を苦しめていたと気付いた人々は、もう二度とスズランの娘を傷つける事はありませんでした。
おしまい
【完結】スズランの娘と幸せのリボン いろは えふ @NiziTama_168
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます