第3話 理由
「カルマ研究所の所長をしています、
綺麗な白い手が差し出され、迷わず握手を交わす。
所長室と言われ通されたそこは、2人掛け用のソファが2つ向かい合い、その間に膝の高さほどの机が置かれた、所謂応接室のようなところだった。部屋の中はすべてが真っ白で物も少なく、このソファと机のほかにはおそらく
僕は片一方のソファに座り、東海林と絹は向かい側に座っている。東海林は端っこで肘を立てこちらを見ず、長い脚を組んでいた。
「作楽とは長い付き合いだけど、彼女ではないかな。どっちかというと彼氏だし」
「おい!」
東海林が絹をにらむ。ごめんごめんとにこやかに謝罪する絹。
「あ、すみません。あまりにも綺麗だったので、女性の方かと…それに、学校で東海林くんを下の名前で呼ぶ人はいなかったので」
向かい合って改めて絹を見ると、本当に女性と言われてもおかしくないほど綺麗で、妖艶な容姿だった。大人の色気というものではなく、どこか儚いようなそんな雰囲気を持っていて、まるで触ると壊れそうな、それでいてしなやかな、本当に絹糸のような人だった。
「そうなの?作楽がここに友達を呼んだのはこれが初めてだから、俺すっごいうれしいよ」
にこっと微笑む絹。友達と言われてすこし複雑な気持ちになったが、東海林がそこを否定しなかったのは素直にうれしかった。
だが、
「あ、でも友達ってほどまだお話はしてないのかな?」
と間髪入れずにつっこまれてしまい、心を読まれたかのような感覚で心臓がはねてしまった。
「絹…」
「つい癖で…。で、時に美命くん」
「はい」
「よく見る夢に心当たりはあるのかな?」
まだ夢の話はしていないが、すでに知っているということは東海林が事前に概要を伝えてくれていたのだろう。
「いえ…出てくる女性にもまったく心当たりはありません。物心ついた時から見ている夢で、そんな残酷な内容の映画や漫画を親が僕に見せるわけもないので、創作物からの影響というのも考えにくいんです」
軍服らしき服装の女性、顔は見えない。周りに同じような軍服に身を包んだ男女が僕らを囲み、女性は今にも処刑されようとしている。あろうことか僕は剣をもち、自分の手で目の前の女性を刺さなければならない状況下におり、絶対に刺してはいけないと心臓が脈打っている状況で始まるこの夢。そして毎度刺す前に、彼女が放つ言葉。
思い出すだけで激しい罪悪感にさいなまれるこの夢。叶うことなら二度と見たくないのに、不定期に僕の前に現れる。
「なるほどね…。ねえ、ちょっといいかな」
「は?」
いきなり立ち上がったと思えば、僕の横に腰かける絹。そして急に肩をつかまれ、目を閉じ至近距離に顔を近づけてくる。唇が触れてしまう、と反射的に目を閉じたが、こつん、とおでこをくっつけてきた。
「うんうん、なるほど。そっか、君は――」
見ると目を閉じた絹は何かに相槌を打っている。そして、
「――その子を探しているんだね」
目を見開いて、翡翠の綺麗な瞳で僕をまっすぐ見てそういった。
あまりの意味の分からなさと綺麗な瞳に見とれてにきょとんとしていると、所長室の扉がノックされる。
「…」
がちゃりとドアを開け、入ってきたのは小柄な少女だった。トレーにのせた3つ紅茶を机に運び、ぺこりとお辞儀して一言もしゃべらずすぐに出て行ってしまった。呆気にとられていたこともありお礼も言えず、彼女があまりにも無表情だったことが印象的だった。
「今のは
いつの間にか元の席にもどって、絹は紅茶をすすっていた。作楽は依然としてこちらを見ずデスクのほうを見ている。
「で、本題に戻るけど。君はカルマを背負っているみたいなんだ」
「か、カルマ…?さっきから思ったんですけど、なんですか?カルマって」
「作楽、本当に何も言わずにつれてきたんだね~!まあ無理もないかあ」
絹は紅茶の入ったティーカップを置く。
「簡単に言うとね、その夢。美命くんの前世の記憶です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます