四章 悪魔の弟子とその研究

第12話

 私が家に着いたとき、もうコナーは家に着いていて、しかも夕食を作り始めていた。師弟子関係していかんけいは、基本的に弟子が家事を担当している。つまり私の遅れは、この世界の常識からみれば何の問題もない。


 しかし、もしコナーが最初から家事を嫌がっていたら、その後もサボる可能性があるので、無茶なぐらいやらせていいだろうが、自分から進んでやっている場合は、ぼんやりしていると、弟子に大変な負荷がかかる。いわばストレスがかかる。


 それに、自分の問題もある。料理の腕はサボると落ちる。分かりやすく言うと、腕が作り方を忘れる。下手になる。


 それは非常に良くないので、私は家事をできる限り手伝うようにしている。


 慌てて外気を吸って冷たくなったコートを木製のフックにかけ、室内に入ってリビングに向かう。


 リビングを通り抜けてキッチンに飛び込・・む前にいったん落ち着いて雰囲気を作ってからキッチンに入った。


 いろんな物語でよく、落ち着いた雰囲気の師匠が出てくるが、多分こういう裏があると思う。もともと性格が落ち着いているのかもしれないが、慌てた時はしっかり自分の心を凪がせてから皆の前に出ているのだろう。


「わあ!師匠!お帰りなさい」


 たとえ落ち着いて入っても、驚かれた。それはそうだろう。玄関で物音がしてからほとんど間がなく誰かが入ってきたら、驚くだろう。パスタをゆでている最中でよかった。包丁でも使っていたら洒落シャレにならない。


 そのそばでは、パンチェッタ※   に暖かいクリームソースが絡められたソースが暖かい湯気を上げていた。


 今日のメニューはカルボナーラらしい。カルボナーラは二人の好物だ。まあ私たちは大抵のものは美味しく食べれるから食卓に出るものはたいてい好物だが。


「ただいま。コーンスープでも作ろうかな」


 私がそういうと、弟子に申し訳なさそうに「もう作りました・・・」と言われた。コナーは気が利く。私が作ろうと思ったものは、大抵もう作ってある。


 気にしないで。










※パンチェッタ

ベーコンみたいなもの。

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