第10話

 私は、慣れた足取りで大通りに門を構える店と店の間にある、ギリギリ道だとわかるほどの細い砂利道じゃりみちに体を滑り込ませた。


 そのまま薄暗い路地ろじを右側の扉の数を数えながら歩く。一、二、三、・・・。


十三番目の古びた木製の扉。というかこの路地の扉はみんなそんな感じだが。の前で立ち止まると、図書館のシンボルである開かれた本が刻印された真鍮製しんちゅうせいのドアノブを捻って、ドアを開けた。


 ここに入って感じるのは、まず古くなった紙から漂う、独特の匂い。それからはるかな時を超えた知識を抱える本特有の雰囲気ふんいき


 そして目に映るのは、壁という壁全てに取り付けられた本棚にぎっしりと隙間なく封じられた本たちのおごそかな出で立ち。


 そして大量の本を背にして、カウンターでのんびりと本を読む一人の老人の、紙をめくるパラリ、パラリ、という穏やかな音。


 時間の流れから隔離されているのではないかと思うほど、のんびりとした老人は、本から顔を上げると


「いらっしゃい」


 と、穏やかに言った。この図書館では、まるで時間がゆっくり流れているかようだ。時間の流れが気にならない。この老人が何歳かは、私も知らない。私がこの町に来た時。数十年前には、すでにお爺さんだった。


 私は、再び本に意識を落とした老人に軽く一礼すると、近くの本棚に近づいて、その前をのんびりと歩く。


足音、それどころかすべての音を、青い絨毯絨毯が吸収する。そのおかげで、この図書館は水が凪ぐような沈黙に包まれている。


 かつて色鮮やかだった、今は時間の流れに溶け込んで渋い色となった本たちが、背中を向けて並んでいる。


 私は、一冊、気になる本を見つけて立ち止まった。私が本と出会うときは、大抵こんな感じだ。面白い本と出会うときは、じっくりと時間をかけて本棚の間を歩く。


 出会った本を棚から抜く。濃淡のある深い青色に、銀箔を散りばめたラメで表現された星々が輝いていた。見事な細工だ。優秀な装丁家そうていかの手によって仕上げられたのだろう。表紙だけで、物語の世界にいざなわれそうだ。


 私は表紙を眺めた後、ふんわりと本をめくった。表紙と違う、灰色に近いシルバーの見返しを通じて、ストーリーが始まった。


 まだらにセピア金の箔をのせた藍色のインクで描かれているのは、古い童話のような、残酷な物語。美しい言葉が所々日にちりばめられている。


 読んでいると、文字のデザイン、柔らかい羊皮紙の質感、本の柔らかい重さに、物語の世界に引き込まれていくような感覚になる。


 私は、時計のない図書館で、時間も忘れて本を読み耽ってよみふけっていた。

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