第7話

 国際魔法協会支部の一階は、まずフリースペースみたいな感じの木製の長椅子と長机が並ぶ結構広い空間がある。


 座っている人たちはみな研究者のような風体ふうていで各々の仕事をしており、机の上は資料や作りかけの魔術道具であふれかえっていた。


そんな混沌とした空間を縫うように、書類を届けたり回収したりする、かごを背負った犬のような見た目の魔術道具が書類を背負って走り回っていた。


その空間を抜けると、立派な木製のカウンターがある。五つあるカウンターはたいてい一杯になっていて、空いているカウンターはめったにない。二十四時間労働労働基準法違反だ。


国が止めようものなら国が潰されかねないので、この協会に文句を言える奴はいない。


このカウンターで働く受付がいくらもらっているのかは知らないが、いくらもらっても足りないだろう。


そしてそんなカウンターの中でも特にフリーカウンターは手続きが多いため、さらに混む。いつも一時間待ちという状況だ。


私はまず、三十分ほど並んで自分の論文を提出するためのカウンターに入った。


カウンターの受付嬢が、張り付いた営業スマイルを浮かべていた。私もそれに、営業スマイルで返す。老人の営業スマイルなんて、たかが知れているが、まあ一応礼儀として。


「ご用件は何でしょうか?」


この支部ができてから、マニュアルには一切変更が加えられていない。


「論文の提出をしたいのだが」


「わかりました。メンバーカードはありますか?」


私は慣れた手つきでローブのポケットから銀製のカードを取り出した。図書券程度のサイズで、魔術で光の反射を焼き付けた自分の写真と、名前、生年月日、会員番号、が書いてある。


私がそれを受付嬢に渡すと彼女は慣れた手つきでバーコードリーダーのような魔術道具にそれをかざした。


カードが淡い紫色に光る。


このカードには魔法陣が組み込まれていて、この魔術道具で読み取ると、国際魔法協会本部にある巨大な魔法陣に保存された個人データが読み取ることができる。いわば、本人確認だ。


「カードはお返しします。論文を提出してください」


受付嬢はそう言いながら、カウンターに銀製のカードを置いた。私はカードを受け取ると、文章がびっしり書かれた羊皮紙を十枚ほどカウンターに置いた。


「こちら。お預かりします」


受付嬢はそう言うと、論文を今度はスキャナーのような装置に通した。この論文は、本部にある魔法陣に保存される。


同時に公開論文として、特殊な魔術道具があれば誰でも読めるようになる。こうすることで、魔術学は発達してきた。そういう意味では国際魔法協会の魔術学への貢献は、かなり大きい。


受付嬢は論文を返すと「またのご利用お待ちしております」と言った。私は、素早くカウンターを離れた。早くコナーの論文も出してやろう。


今度は二時間ほど待ってようやくカウンターにたどり着けた。このカウンターは混みすぎだ。

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