二章 悪魔討つ者と、その外出
第5話
「それじゃあ行ってくるよ」
朝七時ごろ。
今日は久しぶりに国際魔法協会のこの町にある支部へ論文を提出するため、家を出ようとしているところだった。
茶色のコートを着て、ハンチング帽をかぶり久々にしっかりした革靴を履いた。
私がいない今日、コナーは特にやることがない。なので彼の友人である時計職人のせがれと、遊ぶ約束をしているらしい。
朝から薄暗い材料置き場で素材を取り出している。機会と魔術の融合。完成したらぜひ見てみたいものだ。
私の声にコナーはしっかり玄関までやってきて、行ってらっしゃいと返した。すぐに部屋の奥に引っ込んだ。素材探しは
私はドアを開けると、そのままゆっくり階段を下りて、荒削りの石で舗装された道をのんびりと歩き出した。
「ワーグナーさん。お出かけかい?珍しいね」
家の向かいに店を構えるベーカリーのおじさんが私に声をかけてきた。
大体このあたりの家は石造りの二階建てで、一階が店で二階が自宅になっている。
大抵、一階は開放的な環境になっていて、お客さんが出入りしやすいようになっている。家もそうだ。
しかし、彼の店はやはり調理済みの食品を扱っているので、店にしては少し小さいドアにフランスパンをモチーフにした看板が取り付けられている。
このあたりで一番うまいパンを出している。
「ああ。開店するところかい?」
私が聞くと彼はにっと笑って
「ああ。ちょうど今開店するところさ。なんか買ってくかい?」
と言いながら店の隅に置いてあった古びたスタンド看板を立てた。
この店は大体三十年前からある。開店したころはこのおじさんも研究熱心な青年だった。今は研究熱心なおじさんだ将来は研究熱心なお爺さんになるんだろう。
研究熱心なもの同士、仲がいい。安いライ麦を使ったパンでもしっとりと高級感ある食感にしてしまうから驚きだ。
「ああ。クリームチーズサーモンベーグルを貰おうかな」
私が一番気に入っているパンだ。プレーンベーグルに、クリームチーズ、レタス、燻したサーモンを挟んでサンドウィッチにしたものだ。
噛み応えのあるパンに甘いクリームチーズ、しょっぱいサーモン、それにしゃきっとしたレタスの食感が合わさって、食べてるだけで元気になれる。
「お客さん運がいいね。たった今焼き上げて並べるところだよ」
おじさんはそう言うと、飛び込むように店の中に入っていって、飛び出すように茶色い紙に包まれたベーグルサンドを持ってやってきた。
私は銅貨を何枚か渡すと、おじさんからまだ少し暖かいベーグルサンドを受け取った。
「また来てくれよ~」
ベーカリーのおじさんの温かい見送りと、暖かいパン付きで、私は足取り軽く出発した。
今回すべきことは、コナーに人工知能の資料を買うのと、私の作った論文を提出。ついでに、コナーが書いた論文を試しにフリーカウンターに出すことにした。
国際魔術協会のフリーカウンターとは、誰でも論文を提出できるカウンターのことを指す。
ある程度しっかりしたものではないと受け取ってもらえないが、受け取ってもらえると発表されるため、それを見た研究所から招かれることもある。
研究者や魔術師になるための道の一つとされていた。
コナーが最近書いた魔術学の論文を、コナーからそこに提出するよう頼まれている。私も厳重なチェックをしたが、一切問題がない。花丸だ。
と言うことで、コナーの論文がついに世界に出ていくのだ。
師匠としてはうれしい限りだが、コナー本人は論文がどんな評価を受けるかの採点程度にしか思っていないらしい。楽しみにはしているが、そこまで興奮はしていなかった。
もしそこまで興奮していたら、私についてきただろう。
それに、彼は何も言わないと延々と研究を続ける。たまには気の合う友人と研究するのもいいだろう。
彼が友人と約束していている日は彼に予定を入れないよう、気を付けている。
まだ人通りがそこまで多くない大通りを私は少し足取りを速めて進んでいった。
町にはうっすらと霧がかかっていた。
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