第7話 拉致
「蒼真、蒼真くん!大丈夫!?早く起きて!」
耳元でアニメキャラみたいなキンキン声が響く。
ん・・・動画流しっぱなしで寝たんだっけ?あれ?いや待てよ。つか、俺、さっきまで湾岸公園で――――
ぼんやり考えていた俺は、これまでのことを一気に思い出して、弾かれたみたいに体を起こした。
「ここ、どこだっ・・・!?」
慌てて薄暗い部屋の中を見回すと、いきなり目の前に小さい何かが張り付いて来た。
「うわっ!!」
「蒼真くんっ!良かった、目、覚めたねっ!心配したんだよぉ~」
「な、なんだこれっ!?」
焦って何かを顔から引き剥がすと、それはスズメくらいの大きさの銀色の鳥だった。頭にぴょこんとアホ毛みたいなのが付いてて、つぶらな瞳は青い宝石みたいにきれいなやつだ。
それが、人間の言葉を喋ってやがる。
「蒼真くんっ、時間がないから黙って聞いて!僕はラファエルだ、そう、君のパパだよ!」
「は、はぁあああ??」
いきなりそんなことを言い出したスズメもどきに、俺は開いた口が塞がらなかった。けど、スズメもどきは俺の混乱なんかスルーして、マシンガンみたいに喋り続ける。
「不幸中の幸いは蒼真くんが僕の言いつけを守って、腕輪をはめたままでいてくれた事だよ、いいかい、この鳥は僕が君にあげた守護の腕輪なんだ。そして僕は今、日本から腕輪を通じて蒼真くんに話し掛けている」
「ま、マジかよ」
思わず右手首を見てみると、確かにそこには何もなかった。
それにこの喋り方、声はアニメの少年キャラみたいだけど、確かにこの喋りはオヤジっぽい。
俺の手の平に収まっている銀の鳥のアホ毛がぴんっと立って、真面目な口調になった。
「蒼真くん、君は今ピンチだ。なぜなら君は、僕の命を狙っていた国の中枢、ドラコニアの王宮に囚われているからだ。ああもう、信じられないよ!まさかあんなやり方で強引に召喚されちゃうなんてさ!腕輪を通してだけじゃ、看破できなかった!そりゃそうだよね、まさか魔素のない世界に王族が直接やって来るとか、思わないでしょ!一体どうやったんだか知らないけど、ドラコニアの奴らの事だ、血も涙もない残虐非道な事したに違いない」
「ちょっと待てよオヤジ、俺が拉致されたのは分かったけど、それじゃここは日本じゃなくてどこか外国ってことか?ドラコニアってどこにある国なんだよ」
拉致は確かにやべぇ。けど、現在地が分かれば何とか隙を突いて逃げ出せるかもしれない。こんな時だし、全力出せば・・・
そう思って聞いたのに、オヤジ鳥はぷるぷると頭を振った。アホ毛も揺れる。
「蒼真くん、ドラコニアも僕の本当の故郷であるフェニキリアも地球には無いんだよ。今君がいるのは地球とは別の世界、別の次元に位置する異世界だ。君は召喚って形で異世界に強制転移させられたんだよ」
「は、はぁああああ!?嘘だろ、何だよそのラノベ展開!?」
あまりにも、あまりなことに、頭がショートしそうだった。けど、同時に首筋にチリチリとしたものを感じて焦る。
オヤジ鳥のアホ毛もピクっと動いた。
「強大な魔力を持った
「お、オヤジ・・・っ」
言いかけた時にはもう、銀色の鳥の形は溶けて右腕に纏わりつき、いつもの腕輪に戻っていた。
「嘘だろ・・・何だこの展開・・・」
つか、何だって?俺が至宝のオメガって言ってたよな?至宝のオメガって一体、何なんだよ?
でもとにかく、ここは敵地で俺は拉致されて連れて来られた、ってことは理解した。
ってことは、考えたくないけどニールの奴は敵だったってことだよな・・・
あんな人が良かったのも全部、演技ってことか。
あの、訳の分かんねぇキス迫って来やがったのも、全部、このためだったってことだよな。
「・・・くそ、ムカつく」
人のこと、騙しやがって。
でも今はそれどころじゃねぇな。
俺は臨戦態勢を取りながら、薄暗い部屋の入口らしい扉を睨んだ。
扉の向こうに、感じたことのないような嫌な気配を感じる。大きくて強くて、すげぇ圧だ。知らず知らずのうちに心臓の鼓動が速くなった。
圧が最高潮に達したと思った時、扉がコンコンと叩かれて、何も言わないでいると扉が開いて、背の高い男が一人入って来た。
オヤジに負けねぇくらいの美形で、見た目20代くらいか、銀色の長い髪の毛に、金色の目。それに耳が少し尖ってる。何より、こいつの圧、やべぇ。絶対、人間じゃねぇ、こいつ・・・
「勝手に入って来るんじゃねぇよ」
俺を珍獣でも見るような目付きで眺める男に、圧に負けず睨み返してやったけど、そいつはうすら笑いを浮かべた。
「やっと会えたな、至宝のオメガよ。長かった。待ちくたびれたぞ」
そいつが俺の座っているベッドに近付くと、ぐっと押されるような圧力が強くなる。
黙って睨んでいると、そいつは勝手にベッドの縁に腰掛けて名乗った。
「私はこのドラコニアの王位継承者、ヴェルジード=イリアス=ドラコニア。至宝のオメガよ、お前は私のものだ。心と体を開いて私を受け入れよ」
「は?」
何、言ってんだこいつは。
ぼすっ。
しまった、呆気に取られてる間に、マウント取られちまった。
「えっ、何だ、これ」
ベッドに押し倒されて慌てて押し返そうとしたのに、どういうわけか、力が入んねぇ!?
「ふっ、まだあのゴミの血の影響が残っているな。好都合だが、彼奴の血で私のものが穢されたのは気に食わん。今すぐ上書きしてくれよう」
「う、うわぁああああ!?」
キスされそうになってゾッとする。
そ、そうだ!オヤジが言ってた、あれ、あれだ!
「お、おい!俺は同意してねぇぞ!俺はお前のもんじゃねぇし、お前のものになんかならねぇ!拒否だ拒否!拒否する!」
ぴくっとヴェルジードの眉が動いて、ゆっくりと離れていく。
「・・・生意気な」
ま、マジで効いた。
内心ホッとしながら、俺は急いでヴェルジードから距離を取った。
「説明を要求する!この世界のこと、俺がなんで連れて来られたのか、どうしようってつもりなのか、全部話して貰うからな!」
「ちっ」
舌打ちするとヴェルジードは、忌々しそうに吐き捨てた。
「・・・後で執事に説明させる」
本当に無理強いは出来ないらしい。これなら今すぐにどうこうされるって危険はないかもな。
それなら・・・
「待てよ、それならニールを呼んで来てくれよ。ニールの口から説明して貰いたい」
「ニール?」
ヴェルジードは怪訝そうな顔をしたが、合点がいったように歪んだ笑いを浮かべた。
「ああ、あのゴミの事か。お前の世界ではそのように名乗っていたのだな。まあ、いい。そのくらいなら叶えてやる。どちらにせよ、お前はここから逃げる事など出来ないのだからな。早く諦めて私のものになると誓え」
バタン、と扉が閉まってヴェルジードの気配が遠のいて行くと、ドッと汗が出た。知らない間に随分気力を使ってたらしい。
「はぁ~~~っ、つ、疲れた」
くっそ、今までに会ったことねぇような、ヤバい奴だったな。
あんなのとやり合わなきゃなんねぇのかよ。俺、精神戦とか全然向いてねぇのに。
「ふぅ~、さすがドラコニアの次期王ヴェルジードだね、魔力が桁違いだ。でも蒼真くん、偉い!良くやったよ。あんな調子でこれからも絶対、同意しちゃダメだよ」
急に腕輪の感触が無くなったかと思ったら、またスズメもどきが現れていた。
アホ毛が嬉しそうにぴょこぴょこ揺れている。
「オヤジ、何なんだよこれ!?狙われてんのはオヤジなんだろ?なんで俺があいつに俺のものになれ、なんて迫られんだよ!?」
「うん。それは今から説明するね」
*****
あと数話までストックあり
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