第6話 強制召喚

ラーメン屋でニールに釣られて俺まで替え玉しちまった後、二人で腹ごなしに湾岸沿いの大きな公園までやって来た。


もうとっくに日は沈んで、あちこちライトアップされてる。デートっぽいカップルもたくさんいた。

くそっ、リア充爆発しろ。


「わぁ・・・すごく綺麗だ。これが東京の夜景なんだね」


俺がカップルに恨みがましい目を向けていると、手すりに寄りかかったニールが嬉しそうに言う。


「んー、でも夜景なんて、フランスでも同じようなもんじゃねぇの?」

「そんな事ないよ。・・・空気が全然違うし、やっぱり、異国に来てるんだ、ってすごく感じる。本当に感動してるよ。来て良かったな、って思う」


そう言ってニールは俺を振り向いてニコッと笑った。

何となく、ぼーっとその顔を見つめてしまって、ハッとする。


「あ、ああ、そうか、だったら良かった。てか、ちょっと肌寒くねぇ?俺、油断して薄着で来ちゃったしな」


海風が強いから、汗が引いた後の体はあっという間に冷えて来た。


「俺は別に大丈夫だよ。蒼真より筋肉量が多いからね」

「おお?なんだよ、それ。俺だって鍛えてんだぞ。ただ、汗かいた後って冷えやすいからさ」

「確かに蒼真は冷えて来てるね」

「うひゃっ!?」


急にニールに首筋を触られて変な声が出ちまった。


「ちょっと、それくすぐったいって」

「敏感なんだ」


ぞわぞわしてニールの手を外そうとするのに、ニールは意地悪そうに笑って、なかなか手を離さない。


「もう、いいって」


笑いながらやっと手を外して顔を上げたら、妙に近くにニールの顔があった。


「お、おい、近いって・・・」


びっくりして後ろに下がろうとしたけど、手すりにぶつかってしまう。

そのままニールは俺を囲い込むように手すりを掴んだから、まるで両手で壁ドンでもされてるような格好になって焦った。


「ちょ、ちょっと?」


ニールは何を考えているのか、微笑んだまま俺をじっと至近距離で見つめている。


いや、待てよこれ。

何なんだ、これ?


いくら非リアな俺でも、何となく今、変な雰囲気になってることくらいは分かる。

つぅか、周りのカップルもびっくりしてこっち見てんじゃねぇかよ。

ニールがイケメンだから、余計に妙な注目浴びちまってる。


「おい、ニール、ちょっと離れ・・・」


変な汗をかきつつそう言ったら、


「・・・蒼真。キスしていい?」

「はっ!?」


いきなりどストレートな要求を突き付けられて、何を言われたのか分からず間抜けな声が出た。

けど意味が脳に浸透して来ると、今度は全身がカッと熱くなる。


「い、いいわけないだろ!?何でそんなのしたがるんだよ!?」


焦りまくってニールを押して距離を取ろうとしたけど、ニールの奴はびくともしないで、逆に俺の腕をがっしりと掴んでこっちの動きを封じて来やがった。


「ねえ、蒼真。キスさせて・・・」

「はぁっ!?な、何でだよっ!つか、お前、やっぱそっちの人か?俺のこと、す、好きなのかよっ!?」


いくら相手が男でも、こんな経験のない俺には今の状況はハードル高すぎる。

こんなの、どうかわしたらいいんだよ!?


ニールは俺の顔から目を逸らさないまま、言葉を続けた。


「こんな事言うのは、蒼真にだけだ。お願いだ。どうしても蒼真にキスしたい・・・お願い。キス、させて」

「うっ」


ニールの奴は、これまで見たことないような、真剣な、必死な顔をしている。


こ、こいつ、マジで俺のこと、す、好きなのかよ・・・?


その顔を見ると、何だか断るのが悪いような、心苦しいような気持ちになって、なんでだ?って疑問符が頭の中をぐるぐるしていたけど、


「わ、分かったよ、舌入れない軽いやつなら、してもいい」


自分でも訳が分かんねぇけど、気が付いたらそんなこと、言ってしまってた。


「・・・ありがとう」


俺の答えを聞いたニールは、あからさまにホッとした顔になって微笑むと、ゆっくりと顔を近付けて来た。


う、うわ、く、来る・・・!


緊張と混乱と、名前の分かんねぇ感情ごちゃまぜで心臓がバクバク言ってる。

思わずぎゅっと目を瞑ったら、唇が触れる瞬間、ふわっと甘い、いい香りがした。さっきもニールから感じた匂い。


あ、これ、やっぱすげぇいい匂いだ・・・


そう思って緊張も混乱も一瞬静かになった時、ニールの少し冷たい唇が俺のに触れた。


「くっ!」


その瞬間、ニールが俺から離れる気配がして薄目を開けてみると、ニールは辛そうな顔で唇を噛みしめていた。そこからツーッと赤い血が滲み出している。


「えっ・・・!?ニール、どうしたんだよ?大丈夫か?」


俺、噛んでなんかねぇのに。


けどニールは何も言わずに唇から血を流しながら、呆気に取られている俺をぎゅうっと抱き締めると嵐みたいなキスをかまして来た。


「――――ッ!!??」


血の味だ。

茫然として、ニールが野獣みたいに俺のぽかんと開いた唇の隙間から舌を差し入れて来るのを感じていると、ふいに今までにない激しい警鐘が、頭の中で鳴った。


同時に足元から光が差して来て、周りから悲鳴のようなどよめきが上がる。


や、やべぇ。

離れなきゃ。


そう思うのに、俺の体は痺れたみたいになって、指一つも動かせない。

それどころか、意識まで遠のいて来やがった。


「・・・ソーマ・・・ごめん」


意識が途切れる直前、ニールの声がそう言うのが聞こえた。




**********

序盤なのに前回からめっちゃ間が開いてしまいました(´ ω` )やる気よ・・・!永遠に続け!

あと数話くらいのストックは出来たのでそれまで毎日アップします。

ここまで読んで下さった方、ブクマして下さった方々ありがとうございます!リアクションあるとめっちゃ励みになります!

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