第7話 二転三転
その頃王都正門では、血生臭い戦いが繰り広げられていた。
「結界再展開まであとどれくらいかかる!?」
「あと二分頂ければ再展開可能です!」
「一分半でやれ! それ以上は食い止められんぞ!」
奮戦むなしく結界には大きな亀裂が入り、そこから何匹もの飛竜が中に入って来てしまっていた。その内のほとんどは討伐することができたものの、一匹の飛竜が街中に入ってしまっていた。
このままでは民が襲われてしまう。
師団長ロイは追いかけたい衝動に駆られるが、今
「結界再展開準備完了しました、開始します!」
遂に魔法の準備が完了し、結界が再展開される。
その表面には氷の魔法がかけられている。電気には耐性を持つガルム種だが冷気には弱い。これなら勢いを止める事が出来るはず。ロイはそう確信した。
事実結界にぶつかった飛竜たちは、冷気を食らって地面に次々と落ちていた。
電気の罠を食らった時とは違いすぐには復活できず苦しんでいる。
「今の内に大砲とバリスタの修繕と装填をしておけ! 戦いはまだ終わっていない!」
飛竜の獲物に対する執着心は高い。
過去に竜渡り迎撃戦を経験したことのあるロイはそのことをよく知っていた。
事実結界の向こうからこちらを見る飛竜の目はまだ諦めていなかった。
必ずお前らを喰う。一人残らずだ。
そう聞こえてくるようだった。
「だがこの状態を維持できれば勝利は難しくない。だがなんだ、この焦燥感は……」
戦況は悪くないはずだというのに、ロイは胸元がチリチリと焦げ付くような感覚を覚えていた。
そしてその予想は最悪の形で実現してしまう。
「で、伝令! 非常事態です!」
正門に響き渡る声。
突然やって来た兵士の報告は、そこで戦う者の心を折るに充分な内容だった。
「王都西部に大量の魔獣出現! ランクB、
「なん……だと……!?」
グールラットは大人の人間ほどのサイズを持つ巨大なネズミだ。
腐った肉を特に好み、仕留めた獲物をしばらく放置し腐らせてから食べる修正がある。
下水道の奥深くに住み、滅多に表には出てこないが……その性格は極めて凶暴。一匹一匹でもそこそこ強いが、群れるとその戦闘力は爆増。場所によっては竜の群れより厄介な相手になる。
「クソ! なんで考えが及ばなかったっ!」
ロイはその報告を聞き悪態をつく。
ガルム種とグールラットは同時に行動することが多い。それを忘れていたのだ。
グールラットの目的は飛竜の食い残しを食べるため。ガルム種は嗅覚に優れており、腐臭の強いグールラットは狙われないため安全におこぼれに預かれるのだ。
「グラニ種だと決めつけてたから視野に入れていなかった。なんと愚かな……!」
ガルム種はグラニ種と違い普通にグールラットも捕食するため、共に行動することはない。
なのでロイはその対策を怠ってしまっていた。もし思い至っていれば下水道を封鎖し、毒餌を撒いておくことも出来たというのに。
「現在第三師団が応戦してますが戦況は悪化の一途! 至急増援を要請します!」
「ぐっ……う……!」
ロイは苦悩する。
第三師団のみでグールラットと戦うのはまず無理だろう。専用の装備があれば話は別だがそんなものは用意してない。
しかしだからと言って総指揮の自分が
どちらの道も選べないロイは苦悶の表情を浮かべ、呻くことしか出来なかった。
すると、
「いい加減にしろ!」
パン! という乾いた音が響く。
痛む頬を押さえて前を向くと、そこには怒りに顔を歪めた親友の顔があった。
「考えてるならいい、だが放心するのは違うだろ! 一番勝率の高い手を考えろ! さもなきゃ俺が指揮を取るぞ!」
普段軽薄な態度をとるニルベール。そんな彼のこんなにも怒った顔を見るのは初めてだった。
「……すまない。取り乱した」
彼にそんな顔をさせたことを恥じ、冷静になったロイは今自分が何をすべきか決める。
「正門はもう私がいなくても回るだろう。五分で君に指揮を引き継ぐ」
「五分て、お前は出来るかもしれないけど俺の頭に入るか?」
弱音を吐くニルベールに、ロイは口角をあげ皮肉げな笑みを浮かべ言う。
「出来るさ。夜遅くまで作戦の詳細を暗記していた君ならな」
「――――知ってたのか?」
「もちろんだとも。だからここは任せる、私は――――」
街中に視線を移し、ロイは自分に言い聞かせるように力強く言う。
「数人を連れ、グールラットのもとに向かう。全て守ってやるともさ」
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