第6話 報われる
「うーん……本当に誰もいない。どうしたんだろう」
家を出て十分ほど走ってるけど、街中には相変わらず誰もいなかった。いったい何があったんだ?
城の反対側の正門は騒がしいから人が完全にいないってことはないと思うんだけど。気になる。
「しかもなんか爆発音みたいなのも聞こえるんだよなあ。お祭りでもやってんのかな?」
気になるけど今は魔具研に行くのが先だ。
全力で走り、たどり着くまであと少しの所まで来た所で俺は今日初めて人と出会う。
「子ども……? どうしたんだこんな所で」
五歳くらいの子どもが一人、俯きながら歩いていた。
俺はその子のもとに駆け寄ると、しゃがんでその子と視線を合わす。
「どうしたんだいこんな所で、道に迷ったのか?」
「お外、出ちゃだめって言われてたのに……出て、分からなくなっちゃった……」
男の子は今にも泣き出しそうな声でそう言った。
どうやら迷子みたいだな。今は急がなきゃいけないけど、こんな子を見捨てることは出来ない。心の中で先輩たちに謝り、俺はこの子を家まで連れて行くと決める。
「任せろ! 俺が家まで一緒に行ってやる!」
「ほ、ほんとに?」
「ああ、男に二言はない!」
そう言ってドン、と胸を叩くと少年は少し笑顔を取り戻す。
その後少年と話し、住所を聞き出すことに成功した俺は一緒に家のそばまで行った。少年の家は隣の地区だったので歩いて十分くらいだった。
「じゃあお兄さんはお城で働いてるんだ! すごい! 騎士様みたい!」
「そ、そうか? 照れるな」
少年はキラキラした目で俺を見てくる。
嬉しいけど少し後ろめたさもある。魔具研に入ったことを後悔してはないけど、騎士団に入りたかったという未練もまだ断ち切れてないからだ。
「僕はね、大きくなったら騎士団に入るんだ! それで悪い奴を倒すんだ!」
「そっか。頑張れよ」
少年の頭をくしゃくしゃと撫でる。
騎士団に入るのは難しい。絶対になれるなんてことは冗談でも言えないけど応援するくらいはいいはずだ。きっとその頑張りは無駄にならないはずだから。
「僕の家はここだよ! 一緒に来てくれてありがとう!」
「おう、元気でな」
すっかり元気を取り戻した少年は勢いよく自分の家に駆けて行く。
よし、
「ん……?」
次の瞬間、少年が
家の扉は開いてない。いったいどこに消えた?
辺りを見回してみたけどどこにも姿はない。
「いったい何が……って、あれは!?」
少年は上にいた。
しかも一人じゃなく、飛竜と一緒だった。
『グルルッ……!』
赤褐色の飛竜は鋭い鉤爪で少年を掴みながら飛んでいた。
これから何をするかは明白、食べるつもりだ。
「――――っ!」
それを見た瞬間、俺は駆け出していた。
なんで飛竜が街中にいる、とか。どうやって助ける、とか。
そんな無駄な思考は全て捨て、全力で駆ける。
何のために今まで体を鍛えてたんだ。
「この時のためだろ……!」
空飛ぶ飛竜に追いつくため、俺は家の壁を走り少しづつ高さを上げる。
壁走りは足が壁につく瞬間、足で壁をぎゅっと掴むのがコツだ。村の友達にそういったらドン引きされたけど出来るのだから仕方ない。
「待ってろ! 今助ける!」
壁を蹴り跳躍する。
そして飛竜のもとに近づき……その腹を思い切り蹴り飛ばす!
「その子を……離せ!」
『ギュペアッ!?』
渾身の右回し蹴りが炸裂すると、飛竜は苦しそうな顔を浮かべながら少年を解放する。
俺は空中で少年をキャッチするとそのまま重力に身を委ねて地面に着地。ふう、何とかなったぜ。
「大丈夫か?」
「……は、はい」
ポカンとする少年。
まあ飛竜に襲われたんじゃ呆然としちゃうよな。
「家から少し離れちゃったけど一人で帰れるか? 俺は今からあのデカいトカゲを退治しなくちゃいけないんだ」
「う、うん! 僕、大丈夫だよ。ありがとうお兄さん! えと……かっこよかった! 騎士よりずっと!」
そう言うと少年は家の方に走っていく。
……なんだろう。凄い報われた気持ちだ。
騎士団に入れなかった時は今までの努力が全て無駄になった気持ちになったけど、それは違った。俺の努力と夢はまだ生きているんだ。
『グルルル……ッ!』
唸り声を上げながら飛竜は俺を睨みつける。
そして鋭い牙の間から涎を流し、体を低く構える。どうやら完全に俺へ狙いを変えたようだな。
「かかって来な! 俺がぶっ飛ばしてやるよ!」
俺は拳を構え、飛竜へと正面から向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます