第5話 襲来
ジリリリリリリッッ!!!!
「んが!? あ、朝っ!?」
けたたましい目覚まし時計の音で俺は目覚める。
ふあ……少し寝過ぎたみたいだ。見ればもう外はだいぶ明るい。
「また寝ぼけて壊しちゃったか。また博士に新しいの作ってもらわなくちゃな」
俺の枕元には粉々に砕け散った目覚まし時計が七個転がっていた。
運よく生き残った野は三つだけだ。
……最初に比べたら生存率は上がってるな、よし。
「余ってるオリハルコンで時計作ってくれないかな。流石に所長も怒るかなあ」
そんなくだらない事を考えながら身支度し、家を出る。
もちろん行き先は王城内の『魔具研』だ。
「今日も張り切って仕事をしますか!」
勢いよく家を飛び出して……俺は驚いた。
なんといつも人でごった返している王都に、全く人がいなかったのだ。
「あら? みんなどこ行っちゃったんだろ」
こんな静かな王都は初めてだ。
なんだか不気味だけど、ひとまず魔具研に行ってみるとするか。流石に事務所に行けば誰かいるだろ。
「よーし、行くぞー!」
こうして俺はいつも通りのんきに城へ向かうのだった。
◇ ◇ ◇
「竜渡り、第一陣来ます!」
「総員砲撃用意っ! 一発たりとも外すなよっ!」
私がそう命じると騎士たちが一斉に砲門を飛竜に向ける。
無駄のない洗練された動き。練習の成果が出てるな、誇らしい。
『ギャアアアアアアアアッ!!』
悍ましい雄叫びを上げながら赤い飛竜が押し寄せて来る。
何度か飛竜退治はしたことがあるが……やはり怖い。
鋭い牙と爪に獰猛な瞳。鳥より速く飛び亀より硬い鱗を持つ最強生物、それが竜だ。
だけど人だって負けてない。
私たちが鍛え上げた力と知識は竜をも凌駕する。
それを……見せてやろう!
「まだだ、まだだぞ……」
まだ大砲の射程外。
ギリギリまで引き付け……引き付け……
焦らし、油断を誘わせた。
黄金の瞬間を、切り取る。
「
総指揮を取る私の号令に従い、全ての砲門が火を噴く。
放たれるは竜の鱗をも砕く『竜滅砲弾』。特殊な火薬の調合技術により普通の砲弾の数倍の威力を出すことに成功した、人智の結晶だ。
それらが物凄い爆発音と共に飛竜たちを撃墜していく。
「バリスタ隊、
砲撃をかいくぐって来た飛竜には、今度は矢の雨が襲いかかる。
特殊な鉱石を切り出して作られた『矢じり』は竜の鱗を貫通する威力を持つ。一発当たっただけじゃ倒すには至らないが、何発も当たれば飛竜も耐えきれない。
「よし、よし……!」
多数の矢を食らい、飛竜は次々と落下していく。
大砲とバリスタの波状攻撃。
いかに強力な飛竜といえど、これには耐えきれないだろう。
後はこれを飛竜たちが逃げ帰るまで続ければ私たちの勝ちだ。最後まで気は抜けないが……負けることはもうないだろう。
一部の飛竜はこっちまで来てしまうかもしれないが、それも問題ない。
「ロイ師団長! まもなく飛竜が弾幕を抜けそうです!」
「そうか、思ったより早かったな。それでは……結界用意っ!」
騎士団に所属している魔法使いたちが前に出て、魔法の準備をする。
射撃だけでは飛竜を完全には止めることは出来ない。なので魔法で足止めする。
射撃で弱らせつつ結界で足止め。これが『竜渡り』の必勝パターン。
この方法が編み出されて以来、王都は竜に負けたことがない。
「今だ! 結界を展開せよ!」
合図と共に巨大な青い障壁が竜たちの前に現れ、その侵攻を食い止める。
飛竜たちは必死に噛んだり引っ掻いたりして結界を壊そうとするが、結界はビクともしない。
この勝負、貰った!
「今だ! 電撃罠作動! 一気に竜を滅せよ!」
『ギャアアアアアッ!?』
駄目押しとばかりに結界に電気を流す。
今回侵攻している飛竜は電気が弱点。強力な電気を受けた飛竜たちはボトボトと地面に落下していく。
これで勝利は確定――――ん?
「まだ、動いて……る?」
なんと落下した飛竜は再び動き出し、攻撃を再開する。
普通あれだけの電気を食らったら立てなくなるはずなのに……なぜ!?
「師団長! 飛竜が止まりません、指示を!」
「なっ、なぜ止まらない!? くそ、撃て! もっと撃つんだ!」
絶えず発射される大砲とバリスタ。
しかし飛竜たちは何故か、それを回避し始めていた。
「おかしい。グラニ種はあんな機動力はないはずなのに。どうなってる!?」
レッドワイバーンのグラニ種は獰猛で力が強いが動きは遅めだ。
そのはずなのに目の前の飛竜たちは猛スピードで空を飛んでいる。到着予想時間も違ってたし何が起こってるんだ?
「――――まさか」
その時一つの答えが頭に浮かんでしまった。
もしそれが正しいとすれば大変なことになる。俺は急いで転がっている飛竜の死体の一つに駆け寄ってそれをよく観察する。
「そんな、そんなまさかっ! クソ! 最初から間違ってたんだ!」
驚愕の事実に気が付き動転していると、副団長のニルベールが駆け寄ってくる。
「どうしたロイ! 何か気が付いたのか!?」
「しゅ、種類が違ったんだ! 報告にはレッドワイバーンの『グラニ種』とあったが、こいつらは同じレッドワイバーンでも『ガルム種』なんだ!」
「おいおいマジかよ……!」
私の言葉を聞いたニルベールは顔を青くさせる。
どうやら私の言いたいことを理解したみたいだな。
「ガルム種はグラニ種より力は弱い。だがその分移動速度は速く機動力もある。そしておまけに……電気に対する強い耐性を持っている。
最初の一発こそ驚いて足止めくらいにはなったが、もう電気罠は通じないだろう」
「そんな事ってありかよ! 観測班は何やってんだよ!」
ニルベールは悪態をつく。
私だってそうしたい。だけどこれは観測班のせいだけではない。
「ニルベール。これはちゃんと観測班と意思疎通が出来なかった私の罪だ。確かにグラニ種とガルム種の色はよく似ている。だからこそそこまで考慮し、ちゃんと確認を取らなければならなかった」
「くっ! ……だけどよ!」
地面を蹴り、やり場のない怒りをぶつけるニルベール。
不甲斐ない私の為にここまで怒ってくれるとは……本当にいい奴だ。
「普段群れを組まないガルム種が竜渡りをすることは非常に珍しいが……過去になかったわけではない。前例がある以上、いや前例がなかったとしてももっと慎重に判断を下すべきだった……!」
報告書をもっと精査してれば。後悔は尽きない。
だがいくら悔やんでも現実は待ってはくれない。
「師団長! 結界の一部が損傷しました! 飛竜が入ってきます!」
見れば確かにほんの少しだが結界が砕けてしまい、そこから飛竜が入ってきてしまっている。
どうやら私に悔やみ反省している時間はないようだ。一刻も早くこの場を何とかしなければ。
「魔導騎士たちは結界の修理に取り掛かれ! そして電撃罠を氷結罠に変更! そして……腕に覚えのある者は剣を抜け!」
そう命令を出し、私は一番に剣を抜く。
そして結界の中に侵入して来た飛竜めがけ跳び……剣を振りあげる!
「こっちだ飛竜! 王国騎士団第一師団長ロイ・サーフィールが相手だ!」
啖呵と共に剣を振り下ろす。
その一撃は硬い鱗の飛竜を一刀両断し、血の雨を降らす。
その光景を見た騎士たちは歓声を上げるが、喜ぶのはまだ早い。
「戦え騎士たちよ! 命尽き果てるその時まで!」
「うおおおおおおっ!」
士気は高い。
しかし……破滅の足音が近づいているのは、確かだった。
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