第3話 海地獄にて

海地獄の入口に到着しました。 広い駐車場の横に、最近リニューアルされたみたいな真新しい売店と喫茶店コーナーがあります。


チケットを買って中に進むと、歩道の横に広いハスの池がありました。

中学生の時、修学旅行で来たはずですが、全く記憶に残っていません。 歩きながら、彼女の手をそっと握りました。すると、彼女が肩にもたれかかってきました。

歳が離れているせいか、通り過ぎる観光客や、カップルが振り向いてきます。  

岡山では、人目を避けてばかりいたので、嬉しい様な、恥ずかしい様な気持ちですが、有村架純さんに少し似た、若く美しい彼女といることが、どこか誇らしく感じられます。


海地獄に到着しました。 凄く綺麗なコバルトブルーで、温泉の蒸気が雲の様に

池の上に立ち込めています。  彼女も初めて見た様で、ずいぶんはしゃいでいます。「一緒に記念写真を撮ろうよ!」と言うので、近くのテーブルの上にミラーレスのオリンパスペンを小型の三脚で固定します。

海地獄と書いた看板が見え、やっと修学旅行でクラス写真を撮った場所であることを思い出しました。  あれから何十年も経った同じ場所に、今は不倫旅行で

来ているのです。 感慨深いものがあります。


不倫旅行といっても、佳子とはまだそれほど深刻な関係ではありません。 彼女は学生時代から、パパ活で小遣い稼ぎをしたり、ガールズバーで働いていたりで、ずいぶんと男慣れしている軽い女です。 

岡山支店に研修に来てからも、何人もの社員に誘われるまま食事に行ったり、飲みに行ったりしているそうです。   夕食でも奢るといえば、すぐについてきてくれるタイプです。 半年の研修が終われば東京に戻るので、なんの後腐れもありません。  

何度か誘って飲みに行った際に、冗談のつもりで「今度、一緒に温泉旅行にでも行こうか?」といったら、「...いいよ。」と真顔で言うのです。 その時には動揺が止まりませんでした。 手汗と脇汗が一気に吹き出しました。汗でベタベタです。  いったいどういうつもりだったのでしょうか。


でも現実に、今二人でここにいるのです。


カメラのタイマーを10秒にセットして、まるで子供の様に「1たす1は、にー」とまるで阿呆の様な笑顔で写真を撮りました。


コバルトブルーに輝く海地獄を見ると、竿竹の先に竹籠がぶら下げてあり、温泉玉子を茹でています。  美味しそうだったので、海地獄を出た所の売店で、キンキンに冷えたビールと共に流し込みます。 美味しかったです。


そうこうしている内に時計を見ると、もう三時前です。

彼女に「そろそろ宿に行こうか?」といって、そっと手を握ると、「...いいよ。」

といって、また肩にもたれかかって来ました。

親父をたぶらかそうとする、クソ女の感じがしないでもありませんが、嬉しかったのです。


再び、鉄輪から路線バスに乗って、別府駅に向かいます。  なんだか路線バスの旅をしている様です。  


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