第2話 地獄めぐり
別府駅北口バス乗り場から、亀の井バスで鉄輪に向かい、地獄めぐり
をすることにしました。
整理券を取ってからバスに乗り込みます。 平日なので観光客らしき人はほとんど乗っていません。
ふと、学生時代に授業をサボって、友人と映画を見たりした時のことを思い出しました。楽しい気分と、みんなが授業を受けている時間に、こんなことをしていていいのかという、後悔が多少入り混じった様な気分でした。 きっと今も同じ気持ちなのでしょう。
バスは、山沿いの曲がりくねった狭い登り坂のある道路を進んでいます。
時折、車窓からきらきら輝く海が垣間見えて、いい眺めです。
佳子は、新入社員の研修の一環として、半年の約束で私のいる岡山支店にやって来ました。 半年後には、東京の丸の内にある本社ビルでの営業課勤務に戻るのでしょう。
今後、関わりの出てくる岡山支店の業務内容の習得や、働いている人に顔を憶えてもらうのが、研修の目的です。
岡山支店に来てから、一週間ほどして自分の課の研修にやって来ました。
挨拶を交わした程度でしたが、有村架純さんに少し似た、清楚な雰囲気の彼女に、一目で心を奪われてしまいました。
そんなある日、帰宅途中に、岡山駅の構内で何かを探している様な彼女を偶然見かけたのです。
思わず、「どうしたん?何かあったん?」と声をかけました。
少しびっくりした様子でしたが、すぐに自分に気づいて、「倉敷に夕食に行ってみようとしたんですけど、ホームの場所がよく分からなくて。」
「倉敷に行くのは初めて? 案内しようか?」
そう言うと、彼女が少し躊躇した微笑みを浮かべて「何かご馳走してくれるんですか?」と甘えた声で言うのです。 清楚で大人しそうだとばかり思っていた彼女からの突然の誘いに動揺が止まりません。
岡山駅から山陽本線に乗って、17分ほどで倉敷駅に到着です。
倉敷駅の南口から歩いて15分ほどの、倉敷美観地区の近くにある、何度か行ったことのある、瀬戸内海の小魚料理のお店に案内しました。
昼間は、多くの観光客で賑わっている、倉敷美観地区の川沿いの通りですが、日没を過ぎるとすっかり落ち着きを取り戻します。
お店の個室に案内してもらい、彼女と生中で乾杯しました。
あれから、ほんの一ヶ月ほどしか経っていません。 そんなことを思い出していたら、そろそろ鉄輪のバス停に到着です。
歩いて、地獄めぐりに向かいます。
レトロな商店も残る、緩やかな坂道を登って行くと、途中の工事中の地面に立てられた円柱のパイプから勢いよく蒸気が吹き出しています。
途中、何箇所か地獄めぐりの看板がありますが、一番上にある規模の大きな海地獄を目指します。
まだまだ、彼女との二泊三日の温泉旅は始まったばかりです。
なんとも言えない高揚感です。
しかし、この時には、後で本当の地獄送りになるとは、思ってもいなかったのです。
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