第46話 事実は小説より奇(鬼)なり
「……この話、小説にしていいからね。ネタになるでしょ?」
一時間ほど自分の過去を話してくれた知人の言葉に固まる私。
「無理です。それは書けない……書けないです」
顔をぶるんぶるんと振り、即答する私。
「過去のことだから、吹っ切れてるからいいんだよ」
その夜、彼女の笑顔を思い出すも、やはり書けない自分がいた。
今までも色んな方から色んな話を聞いてきたデバネズミ。
ほら、私、クリスチャンのボランティア活動やってたからね。
年配の方の戦争体験談もたくさん聞いてきたわけよ。
弾の痕も見せて頂いたし、防空壕で亡くなった友達やご家族の話も。
中にはパニック発作の方のフォロー。統合失調症の方のフォロー。
素人なりに知識を得て、その都度、できる限り対応してきたの。
正直、焦ったし、一人だったから怖かった。
「……〇〇さん、早く家にきて下さい。助けてください。今、
時計が、時計の針が逆に回っています。悪霊の仕業だと思います」
そんな呼び出しもあっったのだよ。こちらも恐怖案件。
他にも……複数人からのレイ◯体験の涙。隣人宅の失火で家全焼。
自分の不注意で家族を亡くした涙。病気や人間関係トラブルを苦に自殺。
反社から抜けた時の傷の痕。児童虐待の心の傷。余命数ヶ月の想い。
見たり、聞いたりを繰り返してきたデバネズミ。
時に背中をさすりながら、時に共に怒り、泣いて聞いてきた。
小説を書く時、私の奥の奥に溜まった物を取り出して書く。書く。
自分の体験ではないけれど、共感した時の感情を思い出して書く。
けれど、書いていいよって言われたのに、書けないって即答した私。
結婚式前夜に彼が事故死。その時、お腹に宿ってた命は今年二十歳。
義両親となる人からの暴言。子どもを巡っての裁判。
鬱になる一歩手前で震災。
全部洗い流すかのように、津波が実家を、義両親を呑み込んでしまったと。
「……ウエディングドレスを着るはずが、喪服着ることになったんだよ。
籍を入れる前だったからね、私の戸籍はバツがないの。キレイだよ」
冗談めいて明るく言う彼女。
そのあとの「小説のネタにしていいからね」
書けないってなった私は本当の意味で物書きではない?
あれから一ヶ月が過ぎて、言語化できた私。
自分のことは書けても、他人様の哀しみをすぐにネタにはできなかった。
カクヨムフレンズの皆様はどうなんだろう?
ふと質問してみたくなったデバネズミ。
面白いこと、楽しいことはすぐに書けるよ。
次回、「事実は小説より喜なり」
乞うご期待!
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