第45話 偶然
「おお、ジイジの名前がある!」
夫が新聞の切れ端を私に見せた。
うちは新聞はとっていない。
それは午前中に商品を包んできた新聞。
100円均一の陶器の爪楊枝入れを包んだ新聞の切れ端。
義父の49日法要で線香の香りに癒された夫は
家でも同じ香りに包まれたいと線香立ての代用に買った物。
「これ穴が小さすぎた。線香が入らない」
「ほんとだ。これじゃただのシマエナガのオブジェだね」
帰宅後、夫と苦笑いするデバネズミ。
夫のアイデアは良いと思ったのだよ。サイズも合うと思ったのだ。
「お父さん(夫)頭いいね。いいアイデアだと思うよ。さすが」
私もノリノリで夫を褒めてお金を払ったのだが。
残念だね。
夫の実家は線香の香りがいつもしていた。
いや、違う。
実家に行くたび、今は亡き母親に線香をあげていたからだ。
まずは仏間の仏壇にいる義母に。線香の香りは義母の香り。
義父が亡くなり、精神的孤児になった夫。
出棺の時、棺桶の上に花束を置いた夫の横顔は長男の顔。
愛されて育った……ゆえの穏やかな顔。
線香の香りで亡くなった両親を身近に感じたいのだな。
私は洒落た香にしたらという言葉を呑み込んだ。
愛嬌あるシマエナガの爪楊枝入れ。
それを包んでいた新聞紙をゴミ箱に捨てようとした夫。
「おお、ジイジの名前がある!」
「えっ、どこに?」
紙面4分の一枚の端の端。お悔やみ欄に義父の名前。
100円均一のレジの横。一ヶ月以上前の新聞。
たまたまだけど、たまたま包んだ新聞の切れ端だけど。
たまたま行った日に、たまたま行ったお店で、
たまたま買った物を包んで……義父に……再会出来たようで。
嬉しかったデバネズミ。
新聞の切れ端をキレイに折りたたむ。
シマエナガのつぶらな瞳は優しかった義父を思い出させる。
お義父さん、私はいいところに嫁ぎました。
お義父さん、ありがとうございました。
お義父さん安らかにお眠りください。さようなら。
まだ涙が出る出るデバネズミ。
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