第34話 クリーニング店ないない!
繁忙期だ。めちゃくちゃ忙しいのである。分かっていた。今年はさらに忙しくなること想定内だった。しかし、悲しいかな、私の脳のバズりが想定外だ。
忙しいとね、頭がホットフラッシュしてしまうのだよ。終わったと思った更年期症状の一つが出てくるの。身体じゃなくて脳の回転がおかしくなり、テンションが高くなって冷静になれず、お客様との会話がポンコツ化するの。
そんな私の最近のクリーニング店ないない。
なぜ、ないのか? 前代未聞のコントみたいな接客だから。
やらかしたエピソードを二つご紹介。
① 「暗証番号はお分かりですか?」
いつもニコニコ現金払いの時代は終わり、最近では年配のお客様もキャッシュレス。繁忙期はやめてくれ案件。だってね、暗証番号覚えてない人がいるんだもの。
クレジット払いはいいの。レジと繋がっている機器に差し込むだけだから。けど、必ずそのあと、四桁の暗証番号入力しないと清算が出来ないのよ。
何枚もクレジットカード持ってるお客様、混乱してるのか間違えた番号を入力するの。そのたびに、やり直し。後ろに何人もついている時は勘弁して下さいってなるわ。
そこで、私は考えた。先に確認するのよ。言い方悪いけど、間違った番号入れるんじゃねえぞ! 分からない、覚えてないなら、サイン出来る方法があるからさ。って。半分脅し口調で聞くわけ。
「暗証番号お分かりですか?」
「はい」
これでスムーズに進むわけ。忘れたとか、合ってるか不安なら最初からサイン式よ。繁忙期だから聞くのよ。でもね、年配のお客様は大変。
「暗証番号は〇〇〇〇」大きな声で言っちゃうわけ。やばい、やばいでしょ。
後ろのお客様は苦笑い。聞いた私が悪かった……(泣)
② 「ドライクリーニングでは臭いは取れません」
先日ね、羽毛のクッションの臭いが気になるって来店されたお客様がいるの。羽毛布団はいいの、水洗いが出来るから水溶性の匂い、例えば汗の匂いとかは取れるのよ。
「このクッション、臭いのでクリーニングで匂いを取って下さい」
洗濯表示を確認すると、ドライ洗いのみだったの。
基本、ドライ洗剤では匂いが取れないのよ。もちろん、汚れは落ちるけど。
そのことを簡単に伝えて預かろうって思ったら、あなた、そのお客様は理解してくれないの。
お客様、空気読んで下さい。後ろに何人お待ちだと思ってる?
「ドライ洗剤と水で洗うのはどこがどう違うんですか?」
はい、質問攻めにあったわ。30代の男性のお客様、気になったのね。
正直、めんどくさってなったわ。いいの、いいの。暇なら丁寧に説明差し上げます。五年に一度くらい受けるマイナーな質問だけど。
簡潔明瞭に説明したわよ。納得してくれたんだけど、さらに要望。
「羽毛のクッションの料金は?」「三千円くらいですね」
「三千円か〜。高いな。やった方がいいと思いますか? とにかく獣臭が強くて頭を乗せると臭いんです」
だから獣臭って何やねん? やった方がいいかどうか? 知らんがな。
列に並んでいるお客様、隣のレジのお客様とスタッフもずっと聞いてるのよ、私達のやり取りを。たぶんイライラして……。
私も半分、イライラ。自分で決めてねってイライラ。
「私はあまり臭いって思わないですが……」
「そんなことないです。ここに頭を乗せると獣臭がするんです……どうしようかな、三千も出したら、同じの二つくらい買えちゃうしな……悩む〜」
だから何かしら、その獣臭。ラクダですか? 熊ですか? それともライオンですか? ライオンに羽根はありますか?
分かるよ、分かります。クリーニング代の方が高くつくなんて嫌ですよね。
けど、お客様、もう一度言います。空気読んで下さい。忙しいんです。
───ご自分の体臭で獣臭を覆ってしまうのはいかがですか?
やっちまった。とんでもない事を口走ってしまったデバネズミ。忙しいからといってクリーニング店員にあるまじき返答をしてしまった。
お客様も隣のレジの店員も笑いを堪えて……肩が小刻みに震えていた。
しかし、幸いなるかな。そうしますと言って笑顔になるお客様。ほっ。
あの時は大変申し訳ありませんでしたm(_ _)m
前代未聞の対応、反省しているデバネズミ。
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