第17話 デバネズミの出産秘話 3
いざ出陣! 予定日が過ぎても出てこない赤ちゃんを産みに行く日、私の心持ちはこんな感じだった。だってね、お産の前に今まで経験したことのないある事をするって聞いていたからだ。ワクドキしていたのだよ。
夫の運転で病院にGO。母乳育児しか認めない個人病院である。妊娠週数35Wから37Wの間に2キロ体重が増えただけで、太ももをぱちっと叩く怖い先生であった。
「お母さん、この2週間、塩分と水分の摂りすぎだったでしょう。気をつけてください」
ポテチとコーラが大好物だったデバネズミ。内緒で食べたのがいけなかった。むくみも出てる。私は負けてなるものかと意地で2キロ減量。臨月に向かって体重を落とすって大変なのだよ。
半泣きで頑張った結果、妊娠中は6キロ増で抑えた。現在体重は臨月時のプラス一キロ。赤ちゃんはどこ? 幸年期太り♡ 言い訳。
入院手続きを済ませて、いざ病室へ。するの?(〃ω〃)初体験の浣腸とT字帯。フ・ン・ド・シ。私も宮沢りえちゃんになれるかな? ドキドキ。
───どっちも体験できないまま、ベッドで点滴状態。聞いてたんと違う。
「お母さんの陣痛強度と赤ちゃんの心音を確認しながら、いきますね」
腕に針、お腹になんか貼りつけられる。ウソ発見機みたいなデータが出てくる。赤ちゃんの心拍数も数字で出ている。
「じゃ、俺はまた昼過ぎに顔出すから。頑張ってね」
夫が手を振り病室を出て行く。え!? 帰っちゃうの? ずっとそばにいてくれないの? まっ、いいか。立会い分娩は望まなかった夫。陣痛が来たら背中をさすって貰えればいいか。お昼過ぎ、いや、夕方でもいい感じ。私も手を振る。
9時から点滴開始。3時間経過。全く変化なし。爆睡していた私。お昼ご飯は何かしら? カツカレー。上げ膳据え膳って嬉しいわ。最後の一口を食べ終わった頃、夫が病室に入ってきた。カレー完食の私を見て、早く来すぎたって苦笑いする。
「……全く生まれる気配ないよう。あっ、これね、赤ちゃんの心拍数だって」
緑色に光る数字を指差してドヤるデバネズミ。余裕ある妊婦なのだよ。
「😱どっ、どういうことだ? ゼロってどういうことだ」
夫が心拍数を確認し小さな叫び声を上げた。なぜかその時、数字が0だった。
「😱やばい! 誰か呼ぼうか!……あっ、さっき、腹を掻いたら取れたみたい」
テヘペロ案件。安心したのか、落ち着かないのかまた夕方来るねと出て行く夫。
暇で仕方ない妊婦の元を私の両親が労いに来てくれたのは午後2時だった。軽い痛みが10分起きに襲ってくる。
「……難儀だね。まぁ、頑張れや!」金造が言う。
「まだのたうちまわってないね。夜かもね」ミヨが言う。
言いたいことだけ言って帰っていった。のたうち回るんですか?! その言葉聞きたくなかったわー。恐れだけ植え付ける母親ミヨに苦笑いする私。
夕方5時。どこからか祭り太鼓の音がする。夏祭りだ。屋台も出るらしい。陣痛の強さが増してくるたびに、太鼓の音も近づいて来て……赤ちゃんを呼んでくれているような気がした。『産声は祭り太鼓にさそわれて』後日俳句になる。
「なかなか、陣痛が強くなりませんね。少し点滴の速度早めましょう」
助産師さんがそう言いながらニヤリとした。え? 今の笑いは何ですか?
はい、来たー! ミヨの言葉通り私はこのあと、のたうち回るのである。
痛い。痛いじゃないかー! 死ぬー。点滴を止めて下さい! いやそれは陣痛促進剤じゃん。いまさら点滴やめても陣痛は止まんないからな。それにしても痛いよう。
「それだけ痛がってるのに子宮口が開きませんね。バルーンしましょう」
「まだですね。破水させましょう!」
「あらら、違うもの生んじゃいましたね。(;´Д`拭き拭き」
5時から1時間の間、助産師さんの言葉を意識朦朧の中で聞く私。ヒッヒッフーって何? ヒッも言えね〜。痛すぎるんじゃ。
───意識が飛んだ。あの時のニヤリが悪魔の微笑みに感じた。
たぶん、5分くらい意識が飛んだ。あまりの痛さに失神したらしい。頬を叩かれて酸素マスクをされる。ここはどこ? 私は誰? 昭和。
───お腹の中にエッ、エイリアンがいるー! 助けてー!
酸欠状態から脱し、今度は下半身がノコギリで斬られているような痛みを感じた。人生初めての痛み。夫が側にいなくてよかった。たぶん殴っていた。
「そろそろ分娩室に行きましょう。立てますか?」
もしもし? エイリアンに侵された状態で歩けるのかと? 私は助産師さん二人に肩を借り、ふらふらと分娩室へ向かう。これじゃ、私が宇宙人じゃないか!怒
「ヒッ! 〇〇さん、大丈夫? 頑張って……ね」
「……おおっ……ガンバレ」
分娩室に向かうエイリアン状態の私に、ちょうど到着した夫と義母が声をかけてくれた。義母は私のあまりの形相に3歩後退したと言う。髪を振り乱した人ってウチの嫁ですか? 混乱するほど別人案件。
「切っていいですか? いいね、切るよ!」ジョリジョリジョリ。
分娩室で股を広げると、待機していた先生の半ば強引会陰切開。そうしないと赤ちゃんが出てこないらしい。切られてるのに痛みを全く感じない。
「先生、このお母さん、力がありません。どうしますか?」
「吸引用意して!」
分娩室が騒がしくなって、先生の緊張した声がする。そう、私は突然来た陣痛の痛みで気を失うし、過呼吸にはなるし、違うもの生んじゃうしで体力がなくなっていたのだ。先生の素早い判断で吸引分娩になる。
「今はいきんじゃダメ。……はい、いきんで!」
どっちやねん! ツッコミながらイキむ。赤ちゃんの頭、吸引🪠
───スポッ! 生まれた。
私は陣痛促進剤と吸引のおかげで無事、3000グラムの女の子を出産した。
心なしか頭の長い赤ちゃん。いいの、いいの。3歳くらいで治ったから。
「本当に人間が入ってたんだ」
やっと赤ちゃんを抱けた瞬間、私は最初にそう呟いた。金造遺伝子。
次回、令和コロナ禍の出産って大変なのね。乞うご期待!
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