第5話 蜂の巣

「見て、ベランダにこんなの作られてたの!」

「……蜂の巣? でどうしたの?」

「可哀想だけど、壊した。女王蜂には悪いけど……」


作り始めの蜂の巣の写真を夫に見せたデバネズミ。

卵を産みつけられたら大変な事になる。

女王蜂がいない間に、虫取り網の柄でグシャ。

簡単に壊せた。


女王蜂はどこに行ったのだろう?

戻って来て巣がないのを知ったら、戸惑うかな。

壊してしまった罪悪感と、女王蜂の復讐に怯える。

取り込んだ洗濯物にいないか怯えるデバネズミ。




「本当にと土地いらないんだね?」

今から二十八年前、夫に聞かれた言葉を思い出す。

長男の嫁として実家に入れば、相続が出来るという。

この家とは築二百年の家を壊して建てた新築の家。

現金一括払い購入でローン返済無し。

田舎。先祖代々守って来た土地は広い。

固定資産税を払うためだけに働く義父母。


「いらない」と即答した。

同居が嫌なら、敷地内に家を建てればいいと促された。


「建てない」頑なに断り続けて二十八年。

未だに小さなアパート暮らし。家賃を払い続ける。

夫は私の意見を尊重してくれる。


いい所に嫁いだと日々実感出来るのは

別居しているからだよ。

家を継ぐとは、先祖代々の墓を守ることだよ。

葬式、法事は家。七十人分の味噌汁を作る大変さよ。


義母ははおやを見て来たから無理強いはしない夫。

「長男夫婦は楽をしている」田舎の噂話を無視する義父。

何かあると私を庇ってくれた夫。


義父と夫に守られて今の生活がある。感謝しかない。

家も土地も……何にも資産はないけど……。

夫の優しさと思いやりを実感出来た事が財産。


───裸で生まれたから裸で死んでいこうね。

一緒にお風呂に入る時は必ず言う。価値観が同じ。

だから私、ハダカデバネズミともいう。




女王蜂はどこに行ったのだろう?

うち、借り住まいでごめんね。

人間に壊されない土地を探して子孫繁栄してね。




🐝壊してしまった蜂の巣。


近況ノートの写真です。

https://kakuyomu.jp/users/hanasu-hosito/news/16816927862753384583

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