ある、くもりの日のこと。

 アメショーさんと散歩をしていたら、スフィンクスにばったり会った。

「スフィンクス」

「マル。あの日いらいか」

「なんで、こんなところにいるにゃ?」

「そなたに会いにきた」

「ふうん……。だったら、公園に招待するにゃ」

「マルの家か」

「そうにゃ」


 アメショーさんとスフィンクスといっしょに、公園に戻った。

 シャムが、「えぇー?」と言った。

「どういう状況なんだ」

「見たとおりにゃ」

「あんた、スフィンクスだよな。向こうのボスが、なんで、ここにいるんだ?」

「マルに会いにきた」

「へえ……。長老に、あいさつしてください」

「あいわかった」


 ベンチの下から、長老がでてきた。

「スフィンクスか」

「はい」

「まだ若いの」

「五才です」

「そうか。これからも、よろしくたのむぞ」

「はい」

 スフィンクスが、長老に向かって頭をさげた。


 おれは、いつものごはんを、スフィンクスにわけてあげた。

 もそもそと食べていた。


「スフィンクスと、ふたりで話すにゃ」

「いいけど。あまり遠くに行くなよ」

 アメショーさんが、おれに言った。

「うん。

 スフィンクス。こっちにゃ」

 スフィンクスは、おとなしくおれについてきた。

 公園のはしっこで、おれから話しかけた。

「スフィンクスに、ずっと、聞きたいことがあったんにゃ」

「ほう」

「『いっきょう』って、なんにゃ?」

 スフィンクスが笑いだした。

 おれは、気分を悪くした。

「そんな顔をするものじゃない。せっかくのかわいい顔が、だいなしだ。

 おもしろいとか、たのしいとか。そういうこと」

「はあ……」

 そうだったのか。わかってみれば、そんなことかという感じだった。

「どうして、おれたちのなわばりを攻めてきたんにゃ?」

「わたしたちは、増えすぎてしまった。

 子を養うために、より広いなわばりが必要だと考えた。それだけのこと」

「めいわくな話にゃ……」

「わたしたちも、『耳かけ』になるべきだろうか?」

 スフィンクスの問いかけは、ひとりごとのようにも聞こえた。

「どうかにゃあ……。おれは、本当は、赤ちゃんを生みたかったんにゃ。

 でも、それは、もうできない……」

「そうか」

「もう、だいぶ前のことにゃ。

 みっちゃんたちがなにかしようとしてることを、長老は、わかってたんにゃ。

 いやだと思う猫は、逃げていいって、長老は言った。

 だから、ここにいた雌は、みんな、遠くに逃げていった。

 おれは、自分が雌だって、わかってなかったんにゃ。

 それで……。長老も、キジトラさんも、兄さんたちも、シャムも、おれも、みんな、『耳かけ』になった。

 長老は、『人間を信じようぞ』って。おれも、そう言った長老を信じた」

「信じた結果、マルは、雌ではなくなった」

「そうでもないにゃ。だって……」

 てれていると、スフィンクスが目をまるくした。

「誰か、いるのか」

「アメショーさんにゃ」

「なるほど」

 スフィンクスは、納得したみたいだった。

「どうりで、やつがわたしを見る目が、きびしいわけだ」

「おれは、アメショーさんの奥さんだからにゃあ。

 みんなには、ひみつにゃ」

「わたしと、マルのひみつか」

「そうにゃ」

「悪くないな」

 スフィンクスは、くっくっと笑った。


 それから、スフィンクスもつれていって、散歩のつづきをした。

 うちのなわばりを案内してあげた。

 アメショーさんだけじゃなくて、シャムもついてきた。

 とちゅうで、茶トラ猫の兄さんと、白猫の兄さんも合流した。

「スフィンクスは、どうして、野良猫になったんにゃ?」

「マルと同じ。人間に捨てられた」

「めずらしい猫なのに。ふしぎにゃ」

「増えすぎてしまえば、ありがたみもなくなる」

「勝手な話だよな」

 シャムが、横から口をはさんだ。

「わたしたちは、増えてはいけないのだろうか?」

 スフィンクスのつぶやきに答えられる猫は、誰もいなかった。



 はげしいたたかいの現場だった空き地に、みんなで行ってみた。

「のどかなもんだな」

 シャムが言った。

「昼寝しようぜ」

 茶トラ猫の兄さんが言って、みんながうなずいた。


 おれがころんと上を向いてねそべると、アメショーさんがきて、すぐそばに横になった。

 少し離れたところに、スフィンクスのはだいろの体が見えた。空を見ながら、体をまるくしている。はだいろのしっぽが、ぱたん、ぱたんとゆれていた。

「アメショーさん」

「ねてていいよ。俺は、起きてるから」

 見はりをしてくれるらしい。

「じゃあ、ねるにゃ」

「うん」

 


 目がさめると、すっかり日が暮れていた。

 スフィンクスが、おれのところにきた。

「たのしかった。また」

「うん」

 はだいろの体が、歩きだした。

 シャムが「境界まで送ってくる」と言った。それを聞いて、茶トラ猫の兄さんと白猫の兄さんも、シャムのあとを追った。

「俺たちは、公園に戻ろう」

 アメショーさんが言った。

「うん……」

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