6
おれが、アメショーさんの奥さんになってから、だいぶたった。
だんだん、暑くなってきていた。
季節は、春から夏にかわりかけていた。
いつもの、夜の猫会議があった。
アメショーさんも参加していた。
「マルと結婚したから」
アメショーさんが、とうとつに宣言した。
あたりの空気が、びりっとした。
「やっぱりな。そうだと思った」
シャムが言った。
「うちの箱いり娘があぁー!」
茶トラ猫の兄さんが、泣きくずれた。
「へんなこと言うにゃ。おれは、箱には入ってないにゃ」
「マルは、だまってろ!」
「ひどいにゃあ」
「泣かせてやれ」
シャムが言った。
「あわれだな」
白猫の兄さんが、めずらしく言葉をはっした。
「マルに、自分が雌だって教えなかったのは、お前だからな。
ちゃんと教えてやれば、ちがう展開になったかもしれないのに」
「わ、わかってるよ……」
茶トラ猫の兄さんは、まだ涙目だった。
「でも、俺は『耳かけ』だからさ。雌どうしみたいにしか、ならないだろ?」
「そうでもないぞ」
白猫の兄さんが答えた。
「えっ? お前、発情すんの?」
「そこそこ」
「お前も『耳かけ』のくせに。なんでだよ!」
「個体差があるみたいだな」
「くそー。なんでだよ……」
しょんぼりしている。
なぐさめようとして、歩きかけたら、「行かなくていい」とシャムに言われた。
「そうかにゃあ」
「いいんだよ。ほうっておけ」
「はいにゃ……」
長老が、よたつきながら、おれとアメショーさんのところにやってきた。
「では、みなで、結婚式をしてやろうぞ」
「いやだよ!」
茶トラ猫の兄さんがさけんだ。
「見ぐるしいぞ。茶トラよ」
「結婚式って、なにをするんにゃ?」
「あれだ。ちかいの言葉をつげて、チューをするのだ」
「『チュー』って」
シャムが、おなかをかかえて笑いだした。
「『チッス』のほうが、よかったかの」
「よくないよ!」
茶トラ猫の兄さんが、またさけんだ。
アメショーさんが、おれのところにきて、鼻先をくっつけた。
「幸せになろうな」
「はいにゃ」
にこっとしたら、なぜか、茶トラ猫の兄さんが「ぎいぃー」と鳴いた。
猫の声とは思えなかった。
もしかしたら、泣いたのかもしれない。
「じゃあ、そういうことで」
「えっ?」
「行くぞ。マル」
「待て。つれて帰ろうとするな。まだ、会議は終わっとらん」
キジトラさんが言った。
「お前ら、どこにひっこす気なんだ?」
シャムに聞かれた。
「どこにも行かないにゃ。この公園に、ずっといるにゃ」
おれが答えると、みんなが、ほっとしたような空気になった。
「……まあ、そうなるよな」
アメショーさんが、おれの横でためいきをついた。
長老とおれをのこして、みんなが帰っていっても、アメショーさんは、帰っていかなかった。
おれといっしょに、公園にいる。
「帰らないんにゃ?」
「俺の家は、ここになったんだよ」
「ふえっ?」
「お前がいるところが、俺の家だ」
「そ、そうなんにゃ……」
「どうして、ここなんだ?」
「おれが育ったところだから、かにゃあ……。
長老も心配だし。
みっちゃんも、いるし」
「みっちゃんか」
「アメショーさんも、みっちゃんに会いたい?」
「いや。人間には興味ない」
「みっちゃんは、いい人間にゃ」
「そうなんだろうな」
まるい月がでていた。
あおむけにねそべって、じっと見つめていた。
「月を見てるのか」
「そうにゃ」
「たしかに、いい月だな」
「まんまるにゃ」
「そうだな。マルの目にそっくりだ」
「あそこまで、まるくないにゃ」
「まるいよ」
「……そうかにゃあ」
アメショーさんの顔が近づいてきた。
「アメショーさん?」
「そろそろ、その名前はやめにしないか」
「えっ? ほかにも、名前があるんにゃ?」
「あるよ。俺の、本当の名前は……」
アメショーさんが飼い猫だった時の名前を、こっそり教えてくれた。
おれは、マル。
よく日のあたる公園で、イケメンのだんなさんと、なかよく暮らしている。
「わしも、おるぞ」
「忘れてないにゃ」
「風景と同化してるけどな」
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