3-1
ある日のことだった。
公園に、シャムがあらわれた。
すごいいきおいだった。
「はじまったぞ!」
「えっ……」
「マルは、ここにいたほうがいいんじゃないか」
「いやにゃ。おれも、たたかうにゃ」
「うーん。ついてきてもいいけど。見てるだけにしろよ」
「わかったにゃ」
「気が変わるのが早いな」
からかうように言われてしまった。
ベンチの下から、のそのそと長老が出てきて、「マルをたのむぞ」と言った。
「うおっ。いたのか……。
無事でいられる保証はないぜ」
「ぜひもなし」
「しょうがないな。行こう」
シャムが走る。おれも走った。
「ここだ」
「えっ?」
公園から、それほど遠くなかった。
「こんな近くにゃ?」
「そうだよ。マルは、そこの塀の上から見てろ」
「のぼれないにゃ」
「どんだけだよ」
シャムのあくたいも、今日ばかりは元気がなかった。
いつもは、がらんとしてる空き地だ。
そこに、敵と味方の猫たちが、集まっていた。
しっぽが、ぶるっとした。
空気が重たい。
キジトラさんが、敵の前に、ひとりでいた。
なにか、話しあってるみたいだった。
キジトラさんがこっちに戻ってきた。
おれとシャムを見て、「きたのか」と言った。
「はいにゃ」
「一対一だ。白、茶トラ、おれの順でやる」
白猫の兄さんと茶トラ猫の兄さんが、だまったままうなずいた。ふたりとも、しんけんな顔をしていた。なんだか、ずいぶんイケメンに見えた。
「白。お前からだ」
白猫の兄さんは、なにも言わずに、敵のほうに向かっていった。
向こうからは、黒猫の三兄弟の兄がでてきた。
たたかいが、はじまった。
さいしょは、にらみあいだけだった。
お互いに威嚇したり、鳴いたり……。
そのうちに、白猫の兄さんの圧が、黒猫の兄をあっとうしだしてきたのが、遠目に見てるだけでもわかった。
べしっと、白い前足がひらめいて、黒猫の兄の額にあたった。黒猫の兄が、「ふぎゃっ」とあわれっぽく鳴いた。
それだけじゃなかった。
ふりあげた前足の先には、するどい爪がのびていた。ざしゅっと音がするようないきおいで、黒猫の体をえぐろうとした。
「やめ、やめ!」
黒猫の兄が逃げた。
「お前の負けだ!」
白猫の兄さんのかわりみたいに、キジトラさんがさけんだ。
「い、いいよ。それで」
黒猫の兄は、すねたように言った。敵の群れに戻ったままだった。
「あっけないにゃ」
「白が強いだけだ」
シャムが、おれの横から言った。
白猫の兄さんは、ゆうゆうと戻ってきた。かっこよかった。
「おつかれさまにゃ」
おれを見て、白猫の兄さんが、ひげをぴくっとさせた。
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