2-1
アメショーさんと出会ってから、数日がたった。
今日の空は、くもり。
いつもよりも、遠くまで見まわりしてみようと思って、どんどん歩いていったら、なわばりの境界まできてしまった。
「行きすぎたにゃ」
もどろう。そう思って、くるりと体の向きを変えると、後ろから、しずしずと近づいてくる気配がした。
ふりかえって、あっと思った。
たぶん、スフィンクスだ。となりのなわばりのボス。
毛がない猫だと、うわさで聞いていた。
ほんとうに毛がない。はだいろの体は、つるりとしていた。
ものすごくやせて見える。
スフィンクスが、おれのところによってきた。
「なんにゃ。だれにゃ」
「わたしは、スフィンクス」
「となりのボス?」
「そう」
おれをしげしげとながめて、ふうっと息をはいた。
「なんとかわいらしい。そなた、わが陣営にこぬか」
「いやにゃ」
「つれない返事よ。それもまた、いっきょう」
「いっきょう」の意味は、おれにはわからなかった。
「ついてくるなにゃ。いくらボスでも、ひとりで制圧できるほど、うちのなわばりはあまくないにゃ」
「それは、どうかな」
スフィンクスが、笑いながら、おれを見てくる。
目があった。おれは、そらさなかった。
「勇敢なるマンチカンよ。そなた、名はなんという」
「マルにゃ」
「マルか。よろしい。
そのつぶらな目にめんじて、今は引くとしよう」
「つぶらとか、言わなくていいにゃ」
おれは、気分を悪くしていた。
おれは、ぬいぐるみじゃない。りっぱな猫だ。
ぷんぷんと怒りながら、歩きだした。
少し歩いてから、ふりかえった。
スフィンクスの姿はなかった。
公園に戻ると、シャムと白猫の兄さんがいた。
「スフィンクスに会ったにゃ」
「えぇ?」
シャムは、びっくりしたみたいだった。
「どんなやつだった」
「毛がなかったにゃ。いけすかない猫だったにゃ。
境界の近くに、ひとりでいたにゃ」
「そうか。よく無事に帰ってこれたな。
境界には、もう行かないほうがいい」
「……はいにゃ」
「お前の分、とっておいてやったからな。
食べておけよ」
餌の皿を、シャムの前足がしめした。
おれの好きな、おいしいカリカリが入っていた。
「うれしいにゃあ」
「長老は、もう食べて寝てる。ぜんぶ、食べていいぞ」
「ありがとにゃ」
もぐもぐしていると、だんだん、ねむたくなってきた。
たらふく食べたあとは、長老のそばにいって、ねた。
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