2-2

 スフィンクスに会った、次の日。

 おれは、ひとりで境界に向かっていた。

 「いっきょう」の意味が知りたくて、たまらなくなったからだ。

 言われた時に、はじをしのんで、聞くべきだった。

 たぶん、おれよりも、ものを知っている猫だ。それに、かしこそうだった。そんな顔をしていた。


 歩きつづけて、だいぶ境界に近づいてきた。

 このあたりは、シャムと茶トラ猫の兄さんが見まわってるはずだった。ふたりとも、姿が見えない。

 そういえば、アメショーさんは、今はどこにいるんだろうか?

 ふたりで見まわりをした日いらい、会えていなかった。毎日こっちにきてくれるわけじゃ、ないのかもしれない。


 境界につく前に、黒い影が、さっと視界に入ってきた。

 黒猫の三兄弟だ。

「おっ。こいつ、あっちの公園のぬしじゃねえか。マルってやつだ。

 ここから先は、いきどまりだぜ」

「がらあきにゃ」

 あいてるところから、するするっと、とおりぬけようとした。

 いちばん大きな黒猫が、あわてた様子になった。

「ちょ、まてよ。

 たしかに、あいてるけどさあ……」

「兄ちゃん」

 中くらいの猫が、あきれたような顔をした。

「ここは、うちのなわばりにゃ。さっさと、帰れにゃ」

「奥まで行ったら、俺たちのなわばりだぜ。とおすわけにはいかねえな」

「境界までで、ひきかえすにゃ」

「なんの用があるんだよ?」

「スフィンクスにしつもんがあるんにゃ」

「ボスに? なんの?」

「『いっきょう』の意味が知りたいんにゃ」

「いっきょう? なんだあ、それ。

 知ってるか?」

 黒猫の弟たちが、首を横にふった。

「おいしいたべものかなあ」

「そうかも」

「ちがうだろ……」


 先に進もうとするおれの前に、黒猫の三兄弟が立ちふさがった。

「うっとうしいにゃ。どけにゃ」

「こいつ、強気だよ。兄ちゃん」

「実は、強いんじゃ……」

「強そうに見えるだけだ。びびるんじゃねえ」

 黒猫の兄が、おれをじろじろと見た。

 それから、ばかにしたように笑った。

「お前らは、『耳かけ』ばかりだからな。雄と雌がいっしょにいても、なにもできないだろ」

 黒猫の兄が言った。弟たちが、にやにやしだした。

 いやなかんじだった。

「なにもできないって? なんの話にゃ」

「兄ちゃん。こいつ、たぶんわかってない」

「そ、そうみたいだな……。

 こっちにこいよ。マル。

 俺たちのなわばりにいれば、毎日、たらふく飯がくえるぜ」

「おことわりしますにゃ」

「ちっ。かわいい顔してるくせに、つんとしてらあ」

「兄ちゃん。かわいい顔してるから、つんとしてられるんだよ」

「そ、そうか。

 こっちには、本物の雄と雌がいるんだからな。お前らみたいなのとは、ちがって」「……ほんもの?」

 わけがわからなかった。

 黒猫たちは本物で、おれたちは偽物ってこと?

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