1-2

「アメ。マルと、見まわりに行ってくれるか」

「いいぜ」

「たのんだぞ。マルは、あまりはしゃがないように」

「はいにゃ」

 おれのところにアメショーさんをのこして、キジトラさんは行ってしまった。


「お前は、どこをまわってるんだ」

「なわばりの、まんなかですにゃ。案内しますにゃ」

「わかった」

 ふたりで、歩きだした。

 おれのななめ後ろを、アメショーさんが歩いている。

 空は、きれいに晴れていた。

 ぽかぽかした陽気だった。道ばたには、たくさんのたんぽぽの花が咲いている。

「春だな」

「ですにゃ」

「お前のしっぽ、妙に短いな」

「そうですかにゃ」

「短いよ。足も」

「……」

 この短い足は、マンチカンのとくちょうだ。おれのせいじゃない。

「毛が長い。もふもふしてるな」

 もふもふだって……。むっとした。

 猫は、だれでも、もふもふしているものだ。

 この猫も、おれのことを、ぬいぐるみだと思ってるんだろうか。

「あのう。おれの外見のことをいろいろ言うのは、やめてもらっていいですかにゃ」

「……悪かった」

 あやまってくれた。

「俺は、このへんのテリトリーには詳しくないんだ。教えてくれ」

「『テリトリー』って、なんにゃ?」

「なわばりってこと」

「ああ……」

 アメショーさんは、なわばりのことを「テリトリー」と言うらしい。

「教えてって、言われてもにゃあ……。

 ここは、ずっと、キジトラさんが守ってるんにゃ。そこに、最近になって、となりのなわばりのやつらが、ちょっかいを出してくるようになったんにゃ」

「なるほど」

「アメショーさんのふるさとは、どこにゃ?」

「ここからは、だいぶ離れてるよ」

「そうなんですか」

「海の近くだ」

「海かあ。見たことないにゃあ」

「じゃあ、いつか、つれてってやるよ。そうとう歩くけどな」

「そんなに、歩きたくないにゃあ。えんりょします」

「そうか」


 ふたりで、ぐるぐると、見まわりを続けた。

 アメショーさんは、さっきの会話いらい、ずっとだまっていた。


「アメショーさんって、無口な猫ですにゃ」

 ちんもくに耐えられなくなって、おれから話しかけた。

「そうでもない」

「そうかにゃ……」

「平和だな。それとも、テリトリーの境界では、たたかってるのか」

「それは、ないと思いますにゃ。キジトラさんは、『全面戦争』って、言ってましたけどにゃ。

 おおげさなんにゃ」

「どうかな。ここから、三つもエリアが離れたところにいる俺に、声がかかるくらいだからな」

 おれは「エリア」の意味がわからなかったけど、ばかだと思われたくなかったので、だまっていた。

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