第10話 心の変化と告白2
それからも、俺は艦長を支えた。
艦長の仕事が終わったら、お茶を出し、そしていつの間にか枕にされている……そんな毎日を過ごしていた。
艦長とこれだけ接点を持っていると、艦長の性格などが分かってくる。
艦長は、意外にも几帳面で優しい性格だった。
周りからはかなり怖がられているが、話を聞いているとそんな感じは全くしないのだ。
かなり女の子らしい発言が多く、 可愛い一面を持っていた。
俺のことをとても心配してくることだってある。
補佐官が、一番忙しい役職であることは艦長だって知っている。
一日中戦艦ヴィードの中を右往左往していることも知っている。
それを毎日していて大丈夫なのだろうか心配してくれるのだ。
最初にそれを言われた時は、思わず聞き直してしまった。
まさかトップにいる人が心配してくれるなんて、思ってもいなかったからだ。
「今日も何もなかったの?」
「ええ、今日も大丈夫でしたよ。そんな毎日心配なさらなくても……」
「だって……この戦艦の中をずっと回っているんでしょ? でも、わたしはずっとこうやって座って偉そうにして……。本当はあんな口調で話したくない。一方的に圧をかけているみたいで嫌なの。でも、艦長としての威厳というものがあるから、あんな口調で話さざるを得ないの。だから、わたし……すごくつらくて……」
艦長は俺の胸元に顔を埋めてすすり泣く。
この時、俺は確信した。
ずっともやもやしていた心の中が、一気に晴れた気がした。
(そうか……。俺はいつの間に艦長のことを、異性として好きになってしまったのか)
俺は泣いている艦長を慰めるために、艦長の頭の上に手を置いて、優しく撫でた。
しばらく艦長が鼻をすする音を聞きながら、頭を撫でてあげて慰めてあげていると、ゆっくりと俺の顔を見る艦長。
この表情を見た俺は、もう抑えられなくなってしまった。
「艦長……。わたしは……艦長のことが好きです」
「えっ?」
「艦長は覚えていないかもしれませんが、 わたしはここに来る前、見学会で初めて戦艦ヴィードの中に入った時に説明してくれた人が艦長でした。あの時はまだ艦長ではなかったときですね。船に対する執着心、そして楽しそうに話す艦長を見て、わたしはこの戦艦に入ることを決めたんです。幼少期から好きだった海、そして船。あの時のワクワクを思い出させてくれたのも艦長なんです。 艦長はわたしにとって憧れの存在です。そして……今は艦長のことが好きでたまらないです!」
「――――!」
俺は出来る限りの想いを伝えた。
艦長は頬を赤くしながら、そして涙を流しながら驚いた顔で俺を見ていた。
後は最後にこれを言うだけ……!
そう思って最後の言葉を言おうとした時だった。
「ヴァル……。うん、ヴァルが初めてこの戦艦に来た時に、わたしが案内したときのこと覚えてるよ。補佐官になって、わたしと接するようになってからいつもカッコよく見えて、ずっとヴァルの隣にいてくれることがすごく嬉しかった! わたしもヴァルのことが好き! だから……その、もし良かったら……わたしと付き合ってくれませんか!」
「――――! よ、よろしくおねがいします!」
俺が一番言いたかった言葉を取られてしまった。
でも、嬉しかった。
俺の憧れで好きな人と付き合えるなんて、夢でも見ているような気分だった。
「艦長……!」
「ひゃあ!?」
俺は思わず艦長を抱きしめた。
艦長は驚いた声を出したが、すぐに俺の体に腕を回した。
「ヴァル、これからわたしと話す時は普通に話して欲しいの。タメ口で良いから」
「艦長……。分かった、これからはこれで行くよ」
「うん……」
「じゃあ、1つだけ質問していいか?」
「なに?」
「艦長の名前を呼ぶ時、なんて言えば良い?」
「わたしの名前の呼び方? ヴァレンティナで良いよ」
そう言われたが、もうちょっと可愛げなニックネームで呼びたかった。
色々考えた挙げ句、行き着いたものがこれだった。
「じゃあ、これからは『ティナ』って呼ぶことにする」
「ティナ?」
「そう、ヴァレンティナのティナだ。その方が呼びやすいし、可愛らしいニックネームだろ?」
「ティナ……。わたしあだ名で呼ばれたのは初めてかも。でも、結構好き」
ティナはそう言って、俺の胸から顔を離すと、俺を上目遣いで見つめてきた。
小さい顔、そして大きな瞳、そしてこの上目遣いが相まってとても可愛く見える。
そして、ニコリと笑った。
その表情に、俺はドキッとした。
一気に体全体が熱くなった。
「ヴァルのこともあだ名で呼んだほうが良い? ヴァルたんとかでも良い?」
「いや、そんな怪獣みたいなあだ名は嫌だな……。普通にヴァルって呼んで欲しい」
「――――うん、分かった。じゃあこれからよろしくね、ヴァル!」
「こちらこそよろしく、ティナ」
◇◇◇
「――――今になって振り返ると、俺たちって結構時間かかってたんだな」
「身分の違いもあるし、しかもバレたら大変なことになる……。ハードルの高いペナルティーもあるから、なかなか進展しなかったのかもね……。でも、ヴァルとこうやって隣にいてくれるのが嬉しい」
ティナはそう言って、俺の肩に頭を乗せた。
彼女が嬉しくなって優しく微笑むその表情を見て、俺も嬉しくなった。
確かに長い時間はかかった。
俺がティナが好きになったのか遅かったというのもあるだろうが、身分の格差という大きな壁があったが大きな原因でもあった。
この戦艦は別に恋愛禁止ではないが、それ以前にそんな暇がないため成立しないだけだ。
そんな中でこうやって今、ティナと一緒に入られることが、どれだけ幸運で幸せなことか……。
今まで神様なんて信じていなかったが、この出来事があってからもしかしたらいるのかもしれないと思うようになった。
「――――もう時間?」
「そうだな。そろそろいかないとな。じゃなければ明日ちゃんと起きられないな。はは……」
「補佐官なんだから寝坊は絶対にダメだからね! これは艦長としての忠告だから」
「了解です! 絶対に寝坊しません!」
いつもの艦長らしい鋭い声でそう言われ、俺はビシッと敬礼をした。
おかしなやり取りに、俺とティナは吹き出して笑ってしまった。
「ははは……じゃあ、俺はそろそろ寝る。また明日頑張ろうな」
「うん。じゃあまた明日」
俺たちはキスをして、別れを告げた。
扉を開けて礼をし、扉を閉めようとすると、ティナが少し寂しそうな顔をしながら俺を見送っていた。
その表情がそれまた可愛くて……。
俺だって寂しいし、もっと彼女の傍に居たいが仕事は早いので、我慢しながら寝室へ向かっていった。
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