第7話 補佐官と艦長が出会ったばかりの時の話2
あの後、俺たち新人生はとにかく訓練の連続だった。
ここに入ってから約8ヶ月間、新人生は体と己を鍛えるために過酷な訓練を受けなければならない。
戦艦ヴィードは世界最強の大型船。
常に防衛が必要のため、体力と精神力が必要不可欠になる。
つらい……その一言だった。
しかし、ここで諦めてしまっては、俺が今まで努力してきた分が全て水の泡になる。
だから、どんなにつらくても俺は諦めずに訓練に取り組んだ。
◇◇◇
8ヶ月間耐え続け、遂に俺は補佐官の仕事をすることが出来るようになった。
やはり8ヶ月間の過酷な訓練が響いたのか、日に日に誰かが辞めていった。
そして、気づけば20人いた新人生は、10人を切って5人になっていた。
俺以外の4人はそれぞれの役職についていったが、俺に新たな試練が待ち受ける。
補佐官という役職は、戦艦ヴィードの全てをサポートしなければならない。
それは仕事のサポートだけではなく、戦艦ヴィードのエンジンや施設などの整備も含んでいる。
故に、何か非常事態があってもすぐに援助に行けるようにしなければならない。
またひたすら勉強だった。
しかし、補佐官になるために勉強をしまくっていた頃とは違い、勉強に加えて訓練もある。
今まで経験したことがない疲労と、心に重くかかる負担が俺を襲った。
それでも俺は諦めなかった。
補佐官になるためには我慢するしかない。
「はあ、はあ……」
「おいヴァル、お前大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
「いえ……。大丈夫です……」
教官に休暇を促されるくらい体調が悪くても、俺はごまかして勉強と訓練をこなした。
今考えれば、休んでも何も言われないくらいひどかったんだが……。
自分に必死になりすぎて、そんなことも考えている余裕なんてなかったのだろう。
そのおかげか、3ヶ月が過ぎるのは早かった。
遂に、正式に補佐官になるための最後の試験が始まった。
周りには、教官と俺しかいない。
もの凄いプレッシャーだったが、そんなもので負けていては本当の補佐官にはなれない。
俺は最後の試験を必死に解いていった。
最後の力を振り絞って。
「はい、試験終了。解答用紙は問題用紙の上に裏向きにして置いて」
「はい」
制限時間120分全部使って、慎重に解いた。
これで、大きな壁は乗り越えた。
教官の終了の声が聞こえた瞬間、一気に体が脱力した。
「ヴァル」
「はい」
「ここまでよく頑張ったな! よくぞここまでついてきてくれたな」
「いいえ……。教官の教え方が良かったからです」
「そんなお世辞はいらない。全てはお前の努力のおかげだ」
教官は俺の頭を、撫で回した。
最初はめちゃくちゃ怖いイメージがあったが、意外にも優しい人なんだなと思った。
「さて、と……。そろそろ昼ごはんの時間だな。一緒に食べに行くか!」
「――――! はい!」
◇◇◇
半月後、受けた試験は見事に合格したことを教官から知った。
俺は舞い上がってしまったが、すぐに冷静を取り戻した。
これから、この船全てのサポートをしなければならない。
「じゃあ、今日から頼むぞ。ヴァル補佐官」
「教官……。はい! あ、1つお聞きしても良いでしょうか教官」
「なんだ?」
「あの……艦長は最近まで乗組員でしたよね?」
「ヴァレンティナ……いや艦長のことか? ああ、そうだ。最近までは胸元にたくさんバッチを付けていたんだ。ここだけの話だが……あの方はかなりおっかない人だから気をつけろよ?」
「あ、はい。分かりました」
教官は俺の耳元でそう呟いた。
見た目通り、みんなから恐れられる人なのだろうか……。
話しかけてくれた時は全くそんな雰囲気はなかった。
もしかして営業スマイルというやつなのか?
「特に、補佐官になったお前はな」
「えっ、どういうことですか?」
「あとで言われると思うが、1日の日報を提出するために補佐官は必ず艦長室に行かなければならないからな。くれぐれも気をつけてくれ」
「えっ、えっ?」
衝撃の事実を聞いてしまった。
俺は毎日、艦長室を訪れなければならないのだ。
幼い頃に抱いていた夢を再び思い起こさせてくれた、俺にとっては偉大な人。
まさか目の前で再会出来るなんて思ってもいなかった。
せっかく会えるんだし、感謝のお礼はしたい。
俺は楽しみにしながら、初めての補佐官の仕事をこなした。
最初は慣れずにバタバタしてしまったが、昼過ぎになると余裕が出てきた。
確かにこの役職は他に比べて圧倒的に忙しい。
ずっと艦内をぐるぐる回っている感じだ。
しかし、俺はこの仕事にやりがいを感じていた。
何だかんだいって結構楽しい。
体育会系の仕事がほとんどな戦艦ヴィードの乗組員だが、俺だけビジネス職みたいになっているため、様々な人と接することが出来るし、その役職の人達がどんな動きをしているのかがはっきり分かるので、見ていても楽しい。
そして、ほとんどの役職が勤務時間を終えた頃、俺はまだ事務仕事をしていたが、そこに補佐官の仕事の内容を教えてくれた教官が来た。
「おうヴァル、初めての補佐官はどうよ?」
「あ、教官お疲れさまです。確かにてんてこ舞いですけど、結構楽しいです」
「まさかそんな言葉が帰ってくるとは思わなかったな……」
教官はちょっと引き気味でそう言った。
確かに、この役職は一番忙しい。
そんな仕事を楽しいと思っていることがおかしいと思っても仕方のないこと。
多分教官の頭の中には、こいつは変態なのかと思っていることだろう。
「――――ま、まあとりあえずお疲れさんということで。これからヴァレ……ゔゔん! 艦長のところに行くんだろ?」
「はい、そうです。教官に言われたように失礼のないように努めます!」
「おう、絶対にそれを忘れずにな。それにしても、艦長と会えるのか……」
教官は俺からちょっと視線を逸して、考え事をしている。
これは……。
「教官……。もしかしてですけど、艦長に惚れてます?」
「な……! そ、そんなことはありえないぞ!?」
「図星じゃないですか……」
「――――っ!」
教官の顔はみるみると赤くなっていった。
これはもう確実だ。
教官は完全に艦長に惚れていたのだ。
「じゃ、じゃあ俺は先においとまするから! 頑張れよ!」
教官は耐えられなくなったようで、声を裏返しながら出ていってしまった。
艦長は怖いのでは?
それなら普通は惚れてしまうことなんてないはずだが……。
まあ、それは会ってみてだな。
(――――よしっと! こう見ると、意外に平和なんだな。もうちょっと書くことあるかと思ったが……。あとは艦長にこれを届けるだけだ!)
この時、怖くて恐ろしいと噂されている艦長の魅力を知ってしまうことを、俺はまだ知らなかった。
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