第5話 秘密の関係3
「失礼します艦長。補佐官のヴァル・ヴァリッドです」
いつも通りの挨拶をし、重たくて頑丈な扉を開けた。
そして正面を見ると、いつも通りに仕事をしているティナがいた。
この時のティナを見ると、少しだけかっこよく見えてしまう。
やっぱり艦長という、この戦艦の全てを取り仕切っている威厳さというものがあるし、彼女の吊り目でさらにかっこよく見えるというのもある。
「艦長、最終点検の異常は無しでした。明日はアルワクド港にて燃料補給と艦内見学のイベントを行います。機密情報が漏れる恐れがある場所は厳密に施錠することに徹底し、且つ見学者に戦艦の素晴らしさを届けられることに努力を尽くしてまいります。以上です」
「分かった、ご苦労。って言いたいところなんだけど……」
「――――?」
「ヴァル! ちょっとわたしを助けてちょうだい! これじゃあ今日中に終わらない!」
ティナはいきなり俺の顔を見てそう言った。
顔を青くして、異常なくらいの汗をかいていることから、相当切羽詰まっていることが俺でもすぐに分かった。
「手伝うのは良いけど、艦長の仕事を俺がやっても良いのか?」
「そんなのはどうでも良いから早く手伝って! わからないところがあったらわたしに言って。教えるから」
そう言って俺に大量の書類を突き出した。
本来は艦長の仕事は艦長しかやっていけないはずなのだが……。
しかし、今はそんなことを考えている余裕はない。
俺は急いでティナの書類の処理作業に取り掛かった。
内容はやっぱりグレードの高いものだった。
わからないところはないが、書類に書かれている内容がどれも秘密情報のことばかりだ。
監視塔やこの戦艦と契約を結んでいる他の戦艦の連絡事項などがたくさん書かれていることから、俺の予想では敵艦が近くにいるという情報があったと確信した。
敵艦が近づいているということは、艦長との間で頻繁に作戦を練るために情報を共有しているため、その分こういった書類がたくさん送られるのだ。
さらに、戦艦ヴィードは世界でも最大の戦艦であるため、勿論こういった契約を結んでいる戦艦はたくさん存在する。
なので書類はさらに増えていく。
結果、ティナが顔を青くしてしまうくらいに大量の書類がここに集まってくる。
何だか可愛そうな気持ちになってきてしまった。
「そっちはどう?」
「ああ、もうちょっとで終わりそうだ」
「良かった! これなら何とか今日中に終わる!」
どのくらいやっただろうか。
時計を1回も見ないで、ひたすら書類と向き合ってたくらい夢中で作業をしていたから分からない。
最後の書類の作業が終わり、俺はティナのところへ向かった。
「これで全部だ」
「――――終わったぁ! あとは明日これを送るだけね! んー!」
ティナはペンを置いて背伸びをした。
「お疲れ様ティナ。何とか終われて良かったよ」
「ふふっ、ありがとうヴァル。ヴァルがいなかったらわたし大変なことになっていたかも」
「その顔を見たら分かるよ。もう疲れて眠たそうだしな」
「もう疲れた……。シャワー浴びてくる」
「分かった」
ティナはシャワールームへと向かっていった。
艦長室は本当になんでも揃っているし待遇も最高峰だ。
専用のシャワールームと広いベットルームなど、日常的で豪華なもの。
食事もシェフが直接持ってきてくれるらしい。
俺たちのような者はシャワールームは男女別々になっていて、いっぺんに20人くらい入れる簡素なもの、食事はエミリアと一緒に昼食を食べた時のように、決められた献立を食堂で食べる事になっている。
そしてベットルームは1人1部屋だが3〜4畳分くらいしかない。
しかし、俺はティナの恋人なので、一応俺の部屋もあるがほとんどはここで夜を明かしている。
そのため、他の艦員と比べたらかなり贅沢をさせてもらっているのだ。
それに、俺にしか見せてくれない彼女の素性をありのままに見せてくれるので、まさに一石二鳥……!
「ヴァル」
「ん?――――!? ティ、ティナ!? なんでタオルだけに……」
「えっと……ヴァルの背中流してあげようかなって思って……」
「――――!?」
俺の名前を呼んだ声がしたので顔をあげると、ティナは体をバスタオルで巻いて隠したまま俺の前にいた。
俺は困惑してしまった。
一緒にシャワールームに入る、だと……?
これは果たして大丈夫なのだろうか?
「ティナ……無理はしないほうが良いんだぞ?」
「む、無理なんかしてないもん! わたしの裸は知っているんだから別になにもないでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「なら問題なし!」
「えっ、ちょっ……!」
ティナは俺の腕を無理やり引っ張った。
彼女の力は見た目によらず強い方なので、抵抗してもびくともしない。
俺はズルズルと引きずられながら、風呂場へと連れられてしまった。
◇◇◇
結局、俺は抵抗すら出来なかった。
無理やり連れられたというのもあるが、それと同時に自分の本能には勝てなかったというのもある。
ティナは今までこんなに積極的なことはしてこなかったはずだが……最近は俺の方が手玉取られているような気がする。
だが、今はそんなことを考えたって自分の欲には勝てるはずもない。
俺は制服を脱ぐと、浴室の扉を開けた。
すると、ちょうど体を洗っていたようで、シャワーで髪と体についた泡を洗い流しているティナの後ろ姿があった。
「――――」
俺はしばらく黙って彼女の後ろ姿に見入ってしまっていた。
ティナの後ろ姿を見れば、どれだけ魅力的なのかがわかる。
「――――ん? 」
彼女を見たまま突っ立っていると俺の気配に気づいたのか、後ろを振り向いた。
そして、俺の顔を見た瞬間に驚いた表情をすると、顔を赤くして前を向いた。
「び、びっくりさせないでよ……」
「あ……ご、ごめん」
ティナは俺を覗き込むように横目で見ながらそう言った。
何故かは分からないが、俺は無意識にティナに謝った。
「わたしは洗い終わったから、ヴァル良いよ」
「あ、ありがとう」
ティナにそう言われ、俺はシャワーの前に移動した。
そして、シャワーの蛇口をひねろうとしたその時だった。
後ろから肌が触れた。
「てぃ、ティナ!?」
「――――っ!」
俺は後ろを振り向くと、ティナが俺の後ろに回り込んで抱きしめていた。
ティナは俺の体に腕を回し、俺の背中に体を密着させた。
だから、俺の背中から柔らかい感触がストレートに伝わってくる。
「ど、どうしたんだ急に!」
「ちょっとだけ、ちょっとだけこのままで居させて……」
ティナはそう言って、さらに腕の力を強くした。
何かあったのか――――いや、そんな感じはしないから、俺にくっつきたいだけか。
しかし……かなりこれはヤバい!
鏡に映る俺の顔は、いつもと変わらない表情をしているが、心の中は暴れまくっている。
この前のティナと繋がった時も、彼女の体には触れている。
しかし、いまだに慣れる気がしない。
「――――絶対にわたしから離れないでほしい」
「えっ?」
「わたしはヴァルがいないと……何もかもやっていけない」
よく見ると、ティナの腕が震えているのが分かった。
俺はティナの腕に触れた。
「大丈夫だティナ。俺はティナの傍を離れるなんて絶対にしない。俺はもうティナの虜になってしまっているんだ」
「虜になってるの?」
「勿論だ」
「――――ふーん、そうなんだぁ……」
ティナはそう言うと、後ろからティナの不気味な笑い声が聞こえた。
もしかして、嵌められた?
「ヴァルがねえ……。ふふっ……ヴァルって何だかんだ可愛い所あるよね」
「――――」
やはり罠に嵌ってしまったようだ。
ティナは顔を覗き込み、小悪魔的な笑いを見せる。
恥ずかしすぎて顔が暑い。
「そんなに照れちゃって……。もう、ヴァルは可愛いわね!」
ティナは前に出てきて、俺の頭に手を乗せた。
そして、ワシャワシャと俺の頭を撫で回した。
「や、やめろよ、恥ずかしいから……」
「ふふーん……いつもヴァルに責められてばっかりだからお返しよ!」
「お、お返しって……」
そうか、なるほど。
最近ティナがいつも以上に積極的になっているのは、俺にいつもやられているからということか。
でも案外……ティナに責められるというのも、悪くないかもしれない。
――――俺は変態になってしまったのだろうか?
「ねえ、ヴァル?」
「ん? どうしたんだ?」
「この後も、わたしのわがままに付き合ってね?」
ティナは俺を誘おうと、頭を少し傾けて体を前のめりにし、両手を後ろに組んだ。
俺にとって、それが本当に愛おしく見えて……。
「ああ、勿論だ!」
そう言うと、俺たちはキスをした。
そしてシャワーから上がった俺たちはこの後も、甘えてくるティナを俺は甘やかしていた。
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