不完全な二人の話
かつて美しい翼をもつ種族がありました。完全なものを好む種族でした。
あるとき、双子の赤子が誕生しました。彼らは生まれた時から不完全な状態でした。
眼はお互いの色を交換したかのように左右で異なる色を持っておりました。背中に生えている翼は片翼ずつしか持っていなかったのです。二人で一対だったのです。名はレンとリンとつけられました。
不完全な存在の彼らは国中で忌嫌われました。しかし、生をもって生まれてきた赤子を殺めるのもまた禁忌だったため、二人は世間から隔離されるにとどまり、二人仲良く暮らしていました。
ある日のことです。彼らが隔離されている区画に子供たちがやってきました。
「おい、あくま! いるんだろ。でてこい」
「おまえらなんてこわくないぞ」
「そうよ、退治してやるわ」
彼らの目は闘志に燃えていました。
リンは恐ろしくなってレンにすがりました。
「レン、どうして。どうして」
「リン大丈夫だから」
「ねえ、私たちが何をしたっていうの」
「大丈夫。大丈夫」
「私たちは独りぼっちがさみしくて二人で生まれただけなのに」
「うん」
「それだけなのに。どうして。それの何が悪いっていうの」
「……僕たちは悪くないよ」
子供たちの声は家のすぐそこまで来ています。
家に火をつければさすがの悪魔もひとたまりもないだろうと無邪気な声で話しています。
「私たち、生まれてくるのが間違いだったの」
「……」
「……ねえ、あの子たちは私たちのことを悪魔と呼ぶけれど、私にはあの子たちが……いいえ、あなたを除いたすべての人たちが悪魔に見えるわ」
レンはリンの頭を無言で撫で続けます。リンを落ち着かせるためではなく、自分を落ち着かせるために。
「二人で、飛び立とうか」
「レン?」
「彼らが僕らを排除するっていうのならここを捨ててしまおう。……僕たちはきっと生まれてくることを間違えたんじゃなくて生まれてくる場所を間違えたんだ」
レンはリンの手を取り、立ち上がると家の裏手に回りました。
二人の家は崖の上に建っているのです。目下に広がるのはただただ広く開けた海。
海はすべての始まりの場所。すべての生き物の母なのだとレンは言います。
「もし僕らが飛べなくても、僕たちは母のもとで一つになる」
だから心配いらないよとレンは片翼を動かし始めるのでした。リンもそれに合わせて翼を動かします。
彼らは空を舞いました。
それは水平に飛んでいるのか垂直に落ちているのかさえわからないものだったけれど。
だけど、彼らはようやく完全な一対となることができたのでした。
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