第2話

 キカイノクニ。それは文字通り、機械で国内を管理している、世界で一番機械化の進んだ国だ。

 ある時、この国は著しい少子化に頭を悩ませていた。働き手がいなくなってしまえばこの国は立ち行かなくなってしまう。

 そこで国の偉い人たちは、機械の力を最大限利用することにした。

完全機械化に踏み切るうえで何回か暴動も起きたが、次第にその騒ぎもなりを潜めた。機械化によって得られる利点があまりに大きすぎたのだ。

 従来の工場用ロボットだけでなく、接客や事務処理など多くの仕事を機械に置き換えた。もはや人間が仕事という仕事をしなくてよくなったのだ。

 さらに機械の役割は増えていく。名前や教育課程、進路、結婚相手などの割り当ても機械がすべてこなす。

 もはや人間の仕事とはものを創造することにのみ存在する。

 この国の産業はすべて国が管理している。機械化により、人件費が削れたために経済は大幅に黒字になった。国民には基本給として平等に支払われ、そのうえで、国の文化・技術の向上に貢献するごとに出来高で追加の給料が支払われる。新しい技術の開発や、既存の技術の応用方法、絵や文章などの創作などなど。

 また、スケジュール管理やメンタルヘルスケアを目的としたカウンセリング、身体的な健康の保持など、人間の手ではずさんに行われてきた健康管理についても、人工知能によって最適に管理されるようになった。

 仕事に忙殺される日々から解放され、理不尽な上司や同僚からも解放され、人々の生活と心には余裕が出はじめた。自殺や過労死などといった言葉ももはや過去のものだ。

 そうして完全機械化したこの国が生まれた。


 旅人は入国してからこの国に対して根拠のない違和感を抱いていた。

 道は確かにきれいだ。関所にほど近い町というものは、国内外の多種多様な人々が集まるため、どうしても汚くなってしまうはずなのに、ここではごみ一つ落ちておらず、異臭もしない。

 また、道中であう人たちもとても親切でにこやかに会話に応じてくれる。店に入っても親切な機械が接客をしてくれる。

 どうやらこの国の機械は人間同士で話しているのと遜色ないほど流暢に会話をすることができるらしい。先ほど入った軽食店でも機械が接客をしていたが、その見た目が金属みを帯びた人型でなかったら、きっと誰もがそれを人間だと信じて疑わなかっただろう。それほどまでに会話に違和感がなかったのだ。

 しかし、旅人が違和感を覚えたのは、異様なまでに清潔な町でも、親切な人々でも、ましてや機械に対するものでもなかった。

 たしかに機械の性能の高さに驚きはしたものの、それは異文化に触れたことによる衝撃であって、違和感というような吹けば飛んでしまうような曖昧な感情ではなかった。

 国内に入った時から感じていた違和感の正体が何かはわからないが、なんとなく痒い所に手が届かない感じがしていて気持ちが悪い。

 答えの知りえない自問自答にいくら時間をかけようとも答えが湧いて出るわけもない。旅人は気持ちを切り替えてこの国を散策してみることにした。

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