異世界勇者のお守役 ~勇者による魔王討伐は見届けたので、あとは自由に生きようと思います~

荒場荒荒(あらばこうこう)

第1話 魔王と勇者とお守役

ヒトという種族が全部で五つの国家を形成し、独自の文明を築き発展させてきた世界、名をアルヴェリア。


陸海空それぞれに異形の生き物が跋扈し、ヒト種は標的とされる世界であるにも関わらず、ヒト種は淘汰されることはなかった。なぜならヒト種はどの生物よりも考えることができる。生み出すことができる。ヒト種ならではの努力や工夫、趣向を凝らした結果、あらゆる武器や防具、銃火器に魔法などでヒト種の脅威となる存在に対抗、撃破してきた。


しかしそれを甘んじてくれるほど世界は甘くなかった。ヒト種を貶める新たな脅威として異形たちをまとめ支配する存在、魔王が生まれた。この魔王という存在にはヒト種が培ってきた一切が通用しない。


魔王の存在によって一気に窮地に追い込まれたヒト種がとった手段。それが国ごとに異世界から勇者を召喚すること。アルヴェリアのものが通じなくてもアルヴェリア以外のものなら通用するかもしれない。そんな仮説のもと、藁にも縋る想いで異世界召喚を実行した。


そうして召喚された勇者たちの活躍で魔王を撃退、アルヴェリアに平和が訪れた。


その後魔王を倒した勇者たち五人はそれぞれが召喚された国で手厚い保護を受け、思い思いの余生を過ごした。召喚された勇者たちを元の世界に返そうとしたが、実現できそうになかったことへの謝罪と魔王を撃退してくれたことへの感謝を込めた特別待遇だ。


しかしそんな特別待遇を享受しなかった勇者がいた。全部で五つある国の中でも特に武芸と鍛冶が発達した国、イズナの国で召喚された勇者、霧立きりたち源四郎げんしろうである。


彼は召喚された五人の勇者の中で唯一戦闘の心得があった。誰よりも冷静で豪胆。観察眼にも優れている。だからこそ彼だけが唯一気づいていた。魔王は死んだのではなく撤退したのだと。つまり魔王との戦いはこれからも続くということ。


それに備えるために霧立きりたち源四郎げんしろうは考えた。また魔王が復活した時、万全の状態で向かい打つために備えなければと。具体的には、彼の魔王撃破の経験と元々の戦闘のノウハウを生かして霧立流という独自の門派を開いた。その道場をイズナの国のハズレ、人一人通る気配もない場所に建てた。霧立流はどの武器でも戦う術を身につけられるが、メインとなる武器は刀だった。そこで刀鍛冶を探し出し専属契約を結んだ。


最初は誰も近寄らなかったがそれでも少しずつ増えていき、彼の晩年にはイズナの国でも一二を争う規模の流派となった。


霧立流の開祖、霧立源四郎が88という歳で亡くなった。「もし再び魔王が現れたのなら、門下生の中で最も優れた者が陰から勇者たちを支援、討伐するように」という遺言を残して。それから五十年。彼が予期した通り、魔王は再びヒト種の脅威として現れた。そこで開祖の遺言に従い、勇者のお守役が選ばれる。こうして霧立流は魔王復活のたびに、異世界から呼ばれた勇者のお守役として魔王討伐を陰から支えるようになった。


そんな歴史を刻んだのは今から五百年も前のこと。霧立流のトップである当主も今は21代目。今もまだ驕ることなく、粛々と役目を全うし続けている。


しかし昔と変わったこともある。五百年も歴史があれば魔王復活の周期というものがわかってきているのだ。そこに合わせて勇者の召喚も行われるようになっている。


ちなみに現在、霧立流が拠点を構えるイズナの国では勇者の召喚を行っていない。その代わりの人材が霧立流から派遣されるのだ。


そして今日は霧立流から代表者を選定・派遣される日。その代表者発表のため、当主の指示のもと一門の者たちは皆道場の中でも一番広い空間に集められていた。そんな彼らの視線の先には霧立流における現在のトップ、21代目当主がいる。彼は一通り弟子たちの顔を見渡した後で口を開く。


「ついに決戦の時が来た。そこで我ら霧立流からも、慣例に倣い一人派遣することになる」


その紹介とともに一人が当主の横に出る。


「今回、勇者たちのお守役は霧立きりたちれん。彼に務めてもらう」


今回のお守役に選ばれた霧立漣。彼は今回の魔王討伐において過去最速記録を更新し、その後自由に生きるのだった。

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異世界勇者のお守役 ~勇者による魔王討伐は見届けたので、あとは自由に生きようと思います~ 荒場荒荒(あらばこうこう) @JrKosakku

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