半分にする
「フォルテ!」
「レクト。来てくれたのか。正直、助かる」
フォルテたちを視界に収めたレクトは、プニョに周辺の魔物を殲滅するように指示すると、地上に降り立った。寄ってくる魔物を魔術で始末しながら『導きの天風』と合流を果たす。
「ま、無事で何よりね。このままじゃろくに話もできないわ。まずはこいつらを排除しましょうか」
「その声、まさか、ルナルなの!? 女の子になってる!」
見知らぬ少女の聞き覚えのある声を聞いて、クレシェが驚きの声をあげた。その間にも魔術で魔物を仕留めているところは、さすがの腕前だ。
戦況は既に大きくフォルテたちが優位な形へと傾いていた。プニョが派手に敵を引き付けているため、魔物勢いはかなり落ちている。加えて、レクトとルナルという特級戦力が加わったことで、フォルテたちにも余裕があった。
とはいえ、未だに魔物は途切れなく襲いかかってくる。手を休めれば、再び魔物が勢い取り戻すだろう。
「魔物の数がおかしい。どこかで湧いてる」
「そうね。フォルテたちから状況を聞いたほうが良さそうね。一旦、プニョの上に退避するわよ」
「わかった」
ルナルの提案を受け、レクトがプニョに指示を出す。従魔契約の影響か、視界の範囲にいれば意思疎通が図れる。
「うわっ! なんだ!?」
「敵意があるわけじゃないから、大人しくしておいて」
プニョが体の一部を腕のようにしてレクトたちを絡め取る。もちろん、指示に従って皆を退避させるためだが、フォルテたちにとっては予想外の行動だ。思わず攻撃しようとして、ルナルの言葉でなんとか思い留まった。
「ふぁー……。ビックリした……」
「スライムって巨大になると、相当厄介なのね……」
「いや、マジでな。こんだけでけぇと抵抗も難しい」
プニョの上で一息をついた『導きの天風』のメンバーは冷や汗を拭う。その評価を聞いてレクトは鼻高々だ。
「名前はプニョ! 最強のスライムを目指す!」
「相変わらずの名前だねー」
「目指す……? 既に最強な気がするが……」
「魔物どもがまるで相手になってねぇな」
「他の冒険者たちがパニックになってなければいいのだけど……」
「はいはい。プニョのことは衝撃的でしょうけど、今は情報共有を優先させるわよ」
思い思いに話す面々にルナルが情報共用を促す。
まずは、レクトたちが事情を説明。冒険者ギルドのマスターにオダイン樹海の魔物討伐への協力を要請されたこと、空間転移の魔術で転移してきたことについて簡単に話した。
「それで、こっちの状況はどうなってるの?」
「見ての通り、魔物が溢れているよ。特に今日になってからの増え方が異常だ」
ルナルが話を向けると、フォルテが渋い顔で説明を始めた。
その説明によると、魔物が今のように異常に溢れ出るようになったのは今朝のことらしい。別のパーティーのAランク魔術師が鳥型の使い魔を使って原因を探ったところ、魔物の発生源を見つけたらしい。
「詳細はわからないが、人型の魔物が別の魔物を生み出しているようだ」
既に戦線を維持するのも難しくなっていた冒険者と領軍は乾坤一擲の賭けに出た。最大戦力である『導きの天風』による特攻で元凶の魔物を撃破するという策を実行したのだ。
破格の武器を持つ『導きの天風』といえど、魔物がひしめく中を単独で抜け、敵の首魁を打つのは容易ではない。また、戦力の要であった彼らが抜けたことで防衛戦力が低下している。いつ戦線が崩壊してもおかしくはなかった。とはいえ、そんな無謀な賭けに出なくてはならないほど、状況は逼迫していたのだ。
「魔物の増加が急だったからな。援軍の要請が間に合うとは思えなかった。おそらくガンザスにもまだ連絡は届いていないだろう」
「ちょうど良かった」
「そうね。レクトが人前で転移魔術を使ったときには自重しなさいと思ったけど、結果としては良かったわね」
自重しないレクトの行動が状況の好転に繋がったようだ。ルナルとしては複雑な心境だった。今回のことで、レクトに自重しない理由もしくは根拠ができてしまった気がするのだ。これから、ますますレクトに自重を求めるのが難しくなりそうだ。
ルナルの内心をよそに話は進む。
「レクトたちが来てくれたのは本当に助かった。俺たちではあれ以上進むことは難しかっただろう」
「そうね。さすがに魔物の数が多すぎるわ。残っている防衛戦力も心配ね」
レクトたちの参戦があったとはいえ、未だに状況は良くない。一手の遅れが敗北に繋がりかねない状況だ。
「フォルテたちは魔物を倒して。ボスは――僕が潰す!」
「……やれるのか?」
「まあ、いざというときは私がなんとかするわ。それより、元凶の場所はわかるの?」
「あ、うん。私が情報をもらってるよ」
「そう、それならクレシェにはついてきてもらおうかしら」
レクトたちは戦力を分けることにした。元凶の撃破にレクト、ルナル、クレシェ、そしてプニョの半分が向う。そして、フォルテ、コーダ、フィーナにプニョのもう半分が防衛戦力に加わるのだ。プニョは半分になっても十分に大きい。進行速度は落ちるが、戦力としては十分だ。
「スライムって分裂したら別個体になるんじゃなかったか?」
「レクト君のスライムなのよ。常識とか考えても仕方がないわ」
「戦力としては心強いんだが、なんて説明すりゃあいいんだ……」
防衛戦力に加わる予定のフォルテたちはプニョのことをどう説明すればよいか頭を悩ませている。下手をすれば、魔物側の新戦力と判断されるおそれがあるのだ。
そんなフォルテたちにレクトが追い打ちをかける。
「そうだ、ラッシュも連れて行って」
ラッシュとは馬車が入魂器物化した存在。フォルテたちは、以前この馬車に乗ってひどい目にあっている。根本的に人を乗せるのに向いていないのだ。しかし、魔物を駆逐するのには役に立つ。
カダガタとラッシュは車体の扉を揺らした。久々の出番に狂喜を隠せないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます