何となく察する

 フォルテたち『導きの天風』はオダイン樹海の外縁を巡回していた。発見した魔物はすぐに討伐しているが、魔物の数は一向に減らない。それどころか日に日に数を増しているように感じられた。


「終わりが見えないな」

「だなぁ。俺たちはまだ余裕があるが、他の連中はそろそろ限界だぞ」


 フォルテとコーダが汗を拭いながら言葉を交わす。


 魔物討伐を受けた冒険者たちは、パーティーごとに別れて樹海に入っている。魔物の数が多すぎて手分けして対処しなければ間に合わない状況なのだ。そのせいで各パーティーの負担はかなり大きい。この一月弱の間に幾つかのパーティーが離脱することになった。追加の人員は逐次送られて来ているが、魔物の増加を抑えきれてはいない。


「私たちも、レクト君のでたらめな武器強化がなかったら危なかったよね」


 クレシェが、しみじみと呟く。


 ガンザスを出立する前に、フォルテたちの武器はレクトによって入魂器物化と大幅強化が成されている。人目を気にして一部の性能は制限しているが、それでも優位に戦えているのは武器の恩恵が大きい。


「特に解呪が助かるわね。むしろ、なかったら戦線が崩壊していたわ」


 フィーナの言葉通り、クレシェの魔導杖ピカが持つ解呪能力が活躍したのは一度や二度ではない。『導きの天風』のメンバーに使用した分だけでも両手の指でも足りないくらいだ。他パーティーに使用した回数も含めれば、とても数え切れないくらいだ。


「そうだな。『呪い持ち』の数がおかしい。毎日、一体は遭遇しているからな。明らかな異常事態だ」


 本来ならばごく珍しいはずの『呪い持ち』が急増していることに冒険者たちも領兵たちも危機感を覚えている。十年間活動した冒険者が一度も遭遇しないということもあるくらい『呪い持ち』は滅多に発生しない存在だった。それが今のオダイン樹海では日に十体ニ十体と確認されている。魔物の急増と併せて、オダイン樹海で何かが起こっているのは間違いなかった。


「それもなぁ。教会がもっと協力的なら良かったんだが。聖職者の数が明らかに足りねぇ」

「さすがに、これほど『呪い持ち』が現れるとは想定外だろう。当初に比べれば派遣された聖職者も増えてきたしな」

「だが、まだまだ足りねえだろ。手が足りなくなるとまずいから、ピカが解呪してるが……」


 『呪い持ち』の増加は呪い被害の増加に直結する。派遣された人員だけでは、とても手が回らなかった。戦闘人員もギリギリのため、呪いよって離脱者が増えれば人手不足に陥ってしまう。戦線を維持するためにはピカの解呪能力という手札を切るしかなかったのだ。


 ピカは任せろとばかりに宝珠をピカピカと光らせているが、それなりに頭の痛い問題であった。


「今は非常事態だから見逃されてるけど、絶対に目をつけられてるよ。聖職者でもない私がホイホイ解呪を使ってるんだから。実際に使ってるのはピカなんだけどね」

「使い手がクレシェでもピカでも、教会としては看過できないでしょうね。何か言い訳を考えておいた方がいいわね」


 神聖魔術の使い手はほぼ教会が囲っている。在野の使い手は皆無ではないが、解呪を何度も使えるほどの使い手はまずいないだろう。さすがにBランク冒険者を強制的にどうこうする力は教会にもないが、色々と探りを入れられる可能性はある。その結果、レクトのことを知られると面倒だとフォルテたちは考えていた。恩人をややこしい問題に巻き込みたくなかったのだ。


「でも今は、この事態を乗り越えることを考えないとね」


 クレシェが締めくくるようにそう言ったときだった。


 ズンと地に響くような重々しい音が彼らの耳に届いた。


 咄嗟に身構えて周囲を警戒する。が、周辺に異変はない。いや――


「見て! 向こうよ! 巨大な何かがいるわ!」


 フィーナが樹木の向こうを指差す。そこには、ゆっくりと波打つゼリー状の物体が存在していた。


「あれは……? もしかしてスライムか!?」

「おいおい、マジかよ! あんな馬鹿でかいやつ初めて見たぞ! さっきまでいなかっただろう!」


 樹海は見通しがきかないとはいえ、あんな巨大な存在に気づかないことはない。足元だけを見ていたならともかく、冒険者である彼らは空からの奇襲も警戒している。あんなものがいれば、必ず視界に入っていたはずだ。


「どうする? 一旦、退くのも手だと思うわよ」

「いや、こっちにはクレシェがいる。魔法なら案外あっさりとけりがつくかもしれない」


 ともかく、巨大スライムへの対応を決めなければならない。こういうときは即断が求められる。決断に時間がかかれば、なにもかも手遅れになりかねない。フォルテがリーダーとして決断を下そうとしたそのとき――


「……は?」

「今度は消えやがったぞ。どうなってるんだ?」


 巨大スライムは現れたときと同じ唐突さで、姿を消した。


 不思議な出来事に茫然とするフォルテたち。そんな中、クレシェがポツリと呟いた。


「あの辺りってさ。レクト君の家があるところだったりしない?」

「……確かに、あの辺りね」


 樹海の中だ。普通ならば正確な位置関係を把握するのは難しいのだが、エルフは違う。森で生きる彼らは樹海の中でも、かなり正確に方向感覚や距離感覚を維持できるのだ。エルフのフィーナがそう言うからには、確かなことなのだろう。


 そうなると彼らの頭にはある可能性がよぎる。


 あれが何だったのかはわからないが、レクトが何かやらかしたのではないかと。


「いやいや、まさかなぁ?」

「レクトはガンザスにいるはずだろ?」


 言葉では妄想だと否定してみても、頭のどこかで否定しきれていないのか、何故か目が泳いでいる。


「でも、レクト君だよ?」


 挙げ句、クレシェの一言で完全に黙り込んだ。何の根拠もない言葉だが、彼らには大きな説得力を持っていた。


「うん、まあ、一応様子の確認だけしておこう」

「そ、そうだな! 行って見れば何かわかるかもしれん!」


 しかし、彼らが確認できたのは、アースグレイブらしき魔術の痕跡だけで、そこで何があったのかを知ることはできなかった。




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明日から投稿頻度下がります。(隔日投稿)


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