手玉に取る
プニョの実力を確認するには、この辺りの魔物でも力不足のようだ。
「どうする? もうちょっと奥までいってみる?」
「とりあえずたくさん集めてみる」
「一対多での動きを見るのね。なんか、あんまりさっきと変わらない結果になりそうだけど」
レクトはプニョが大勢の敵とどう戦うかを見たいようだ。確かに敵が一人か複数かでは立ち回りが大きく変わる。とはいえ、プニョは複数に分裂してそれぞれ独立して動けるのだから、結果は見えているというのがルナルの評価だ。
敵を集める方法は幾つかあるが、レクトは最も単純な方法を選んだ。身体強化と風の魔術を併用しながら周囲を駆け回り、周辺の魔物の注意を引く方法である。ほんの数分で大量の魔物が釣れた。その数は三桁に届きそうなほどで、もし仮にこのままオダイン樹海を出て街に向かえばちょっとしたパニックになることは間違いない。
「もうそろそろいいんじゃないの?」
「わかった」
そんな数の魔物に追いかけ回されているにも関わらずレクトとルナルも平静さを保っている。事実、不意をつかれない限り、二人にとっては大した脅威ではないのだ。
「プニョ、いいよ」
「プニョォ!」
レクトの許可が下りて、プニョが好戦的な唸り声を上げた。レクトたちと魔物の群れの間に立ちふさがる。
「なんだかやけに好戦的になったわね。鑑定魔術は使ってみた?」
「まだ」
鑑定魔術は神聖魔術の一種でアイテムやモンスターがどういう存在なのか知ることができる。もっともレクトが使うのは、それを模して再現した別の魔術だが。
「スペリオルスライムだった」
「あら、そうなの? 意外と普通というか、過去にも確認されてる種族ね」
バーサーカー・スライムだとかの新種のぶっ飛んだ種族になったのではないかと予想していたので、ルナルとしては拍子抜けだ。もっとも既存の種族名だからといって、ぶっ飛んでない保証はどこにもないのだが。
魔物を待ち受けるプニョの隣にもう一体の同サイズのプニョが増える。その隣に更にプニョが増えていく。瞬く間に、一帯はプニョだらけになった。
とはいえ、分身プニョは人の頭ほどのサイズしかない。魔物の群れは踏み越え、潰して先に進もうと勢いを落とすことなく突進してくる。
だが、魔物たちの意図どおりに事は運ばない。プニョを踏みつけた魔物は、次の瞬間、空高く打ち上げられた。踏みつけへの反発力に加えてプニョが全力で押し上げた結果だ。心構えもなく打ち上げられた魔物はろくに態勢を立て直すこともなく落下に入る。落下した先にいるのは別のプニョだ。落下な勢いがそのまま反発力になり、トランポリンのように再び打ち上げられていく。
それは後続の魔物たちも同様だった。魔物に対してプニョの分身は数が少ないが、滞空時間を利用して全ての魔物がお手玉にされている。
「凄い」
「なんていうか器用ね。どこで、こんなこと覚えたのかしら……?」
もう戦いというよりも、一方的に遊ばれている状態だ。やはり、この程度の魔物ではプニョの相手は務まらないらしい。
「このまま見ててもしょうがないわね」
「うん。プニョ、おしまいにして」
レクトの指示に従って、幾つかの分身プニョが魔術を使う。異界魔術ではなく、アースグレイブという一般的な中級の属性魔術だ。本来ならばターゲットの真下から円錐状の石柱を生やし攻撃する魔術だが、分身プニョはそれを誰もいない地面に複数生やした。そして、お手玉状態の魔物を石柱に向かって飛ばしていく。飛ばされた魔物たちは綺麗な弧を描いて見事に串刺しだ。それだけではまだ生きている魔物もいたが、生き残りも身動きが取れないまま、追加で生成された石柱に貫かれ絶命することとなった。
残るは百近くの魔物の死骸だけ。惨状を作ったプニョはというと、ぷよんぷよんと弾んだり、分体同士で追いかけっこをしたりと、呑気なものである。
「死骸はどうするの。ここに放置しとくのはよくないわよ」
「全部プニョのエサ」
「まあ、それが一番面倒がないかしら」
戦いでは使わなかったがプニョの溶解能力もかなり強化されている。これほどの死骸も一日もあれば処理してしまうだろう。
全てエサにしてもいいと聞いたプニョは最も効率の良い捕食方法をとった。すなわち、分身を全て合流させてから一気に取り込もうとしたのだ。亜空間収納に留まっていた分も含めて全てが合流したプニョはレクトやルナルが想像していたよりも遥かに巨大だった。小高い丘のような規模があり、周辺の樹木よりも高い。
「でっかい」
「でっかいって規模じゃないわよ! こんなに大きかったの!? まずいわよ、レクト!」
小山のようなプニョを見上げてルナルが慌てている。これだけ大きいと、とある懸念が生じてしまうのだ。
「何がまずいの?」
「忘れたの? 今のオダイン樹海は冒険者たちが間引きに来てるのよ。プニョを見られたら大騒ぎになるわよ!」
「ちゃんと従魔のタグ、あるけど」
レクトはきちんとした従魔なのだから問題ないと考えているようだが、そんなわけがない。まず子供がオダイン樹海にいることがおかしいし、前代未聞の巨大スライムを従魔にしているとしても信じてくれるかどうか。そして、そもそもの問題として――
「あの巨体に比べて小さすぎるタグなんて見つけられるわけないでしょ!」
「たしかに」
ルナルの指摘したとおり、プニョの体のどこかにあるはずの従魔タグはぱっと見て何処にあるかはわからない。というより、見えるところにあったとしても、無数に浮かぶ魔物死骸のインパクトが強くて目に入らないだろう。
レクトたちは騒ぎになる前に撤収することにした。プニョはいつものサイズの分身を一つ残し、残りの大半を亜空間に格納する。それを待ってから、レクトたちは空間転移の魔術でガンザスのアパートに戻った。
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