ポーションとはこうやって作る
魔力回復ポーションの材料は主に白月草、陽溜蓮花の蜜、天咲花の蔓だ。そのいずれもレティカが、群生地を把握している。レティカ自身も納品用ポーションの材料が不足していたので、街に戻ることなく採取地を巡ることにした。
このとき、レティカはレクトの非常識さを目の当たりにした。
まず移動に時間がかかるからと言って用意したのが空飛ぶベット。歩くことなく快適に目的地まで運ばれた。
群生地についてからは、不思議な魔術でポーションの材料を器用に刈り取る。時間がかかるはずの採取作業が一瞬で終わった。しかも、大量に採取すると他の人が困ると指摘すると、未知の魔術で採取したはずの植物を瞬く間に復活させたのだ。
そうやって集めた素材はレティカの分も含めると膨大な量になる。だが、レクトが何か呟くと一瞬でどこかに消えてしまった。亜空間に収納したと説明されてもレティカにはわけがわかない。ついでいえば、レクトが次々と作業する横でなぜかルナルが頭を抱えていて、それもよくわからなかった。
そんな風にとても現実とは思えない採取作業をこなしたあと、レティカたちはガンザスに戻ってきた。すでにお昼は過ぎているが驚異的な速さだ。
戻ったことを報告すると、セーニャはレクトたちに礼を言った。レティカには軽い説教だ。しかし、最後には「心配したんだから」と頭を撫でられ、レティカはまた泣きそうになった。
そして、今、レティカたちはアパートの前にいる。
「あれ、ドアが新しくなってるような……?」
「直した」
自室のドアが妙に綺麗になっていることに気が付き、レティカが小さく呟く。それを素直に拾うのがレクトだ。
「……? どういうこと?」
「まあまあ、気にしないで」
一方、誤魔化すのがルナルだ。おかげでレクトたちの乱暴な突入について知られることはなかった。知られたとしてもレクトは気にしなかっただろうが。
「材料を出す」
「うん、ありがとうね。運んで貰って」
「大丈夫」
部屋に入ってから、レクトはレティカの分の材料を取り出していった。
「それにしても大量に集めたわよね。時間が経つと品質が悪くなるわよ。大丈夫なの?」
溢れかえる植物類を見て、ルナルが呆れたように言った。これを常識的な方法でポーションに加工するとなると、相当な時間がかかるだろうことは想像に難くない。
「そうだけど……。昨日は作れなかったから、その分頑張らなくちゃ」
レティカは笑顔を浮かべてそう言った。しかし、その笑顔からは無理をしていることが明らかに見て取れた。
「手伝う?」
レクトは軽く提案したが、レティカは首を横に振り断わった。彼女としては、これ以上迷惑をかけたくないのだろう。
レクトにはそのあたりの機微は理解できなかったが、無理に手伝うつもりもなかったのでそれ以上は何も言わなかった。
ルナルも口出さない。レクトもルナルもポーションを作ることはできるが、作り方はこの世界な標準的な方法とはかけ離れている。手伝うとなると、隠すのも難しい。すでにレクトが色々とやらかしている気もするが、まだ致命的ではないはずだ。しかし、レティカの専門でやらかしたなら誤魔化すのは難しいだろう。
という計算をしたのだが。
「じゃあ、自分の分を作る」
「ちょっ!?」
レクトがそう宣言した。ルナルが止める間もなく。
宣言した直後から、レクトの前に宙空に液体が生成されていく。これはレクトの魔術による現象だ。異界魔術には幾つかの連続する処理をまとめて自動的に処理する技術がある。その技術をポーション作成に適用したのだ。素材は亜空間収納から取り出されると同時に処理される。一瞬で終わるので、何もないところからポーションが生み出されているように見えるのだ。
始めはほんの一雫だったが、どんどん増え続け今ではレクトの頭よりも大きな水玉が出来上がった。
「レクト! 一旦、止めなさい!」
「ん?」
「容器はどうするの! まだ準備してないでしょ!」
「……あ」
本来ならばポーション瓶の作成と瓶詰めまで自動的に行われるのだが、材料の用意を忘れていたため液体そのものが宙に浮かぶという状態になっている。
「……プニョに直接あげる?」
「さすがに多いわよ。まだ試したことないんだから最初は慎重にいったほうがいいんじゃない?」
「わかった……」
そうなると、やはり小分けにする必要がある。さすがのレクトも材料なしにポーション瓶を生成するのは――できなくはないが、ポーション作成中に並行するのは難しい。
「ルナル……」
「仕方がないわねえ」
すがるような目で見つめられ、ルナルが手伝う。言葉では渋々といった感じだが、頼られて嬉しそうな表情が隠しきれていない。
ルナルの手伝いはポーション瓶の素材を生成すること。原子操作でケイ素を生成し、酸素と化合させ石英を作る。何もないところから生み出しているわけではないが、詳細を知らなければそう見えてもおかしくはない。
「ど、どうなってるんですか、これ!」
神の御業と言われても納得できそうなことがあまりに気軽に行われている。そんな事態を目にしてレティカが素っ頓狂な声を上げた。
さすがに誤魔化しようがない。ルナルにできたことは深い溜息をつくことだけだった。
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