魔物を従えてみる
従魔師ギルドを訪れた翌日。
レクトは街の外に来ていた。もちろん、人化したルナルも一緒だ。見た目上は子供が二人だけで街の外に出ようとしている状況。当然、門を出るところで衛兵に止められたが、認識票を提示することで強引に押し通った。レクトの認識票は特級従魔師になったことでアップデートされている。どういうわけか、明らかに特別なものとわかるようなピカピカの材質に変化しており、刻印も見る者が見ればわかる特別なものになっているらしい。実際、衛兵に見せたときの効果は覿面。ルナルは識別票を持っていないにもかかわらず、問題なく街を出ることができてしまった。
「さてと、これからどうするの?」
「魔物を探す!」
「それはそうなんだけど、何か狙いの魔物はいるのかってことよ」
「特にはない。とりあえず、なんでもいい」
レクトたちが街を出た目的は、魔物を従えて従魔にすることである。というのも、レクトは特級従魔師になったが、それとわかる従魔を連れていない。一応はルナルが従魔として登録されているわけだが、彼女は人前では人型で行動するようしたので従魔と見られることはないだろう。そうなると、特級従魔師なのに何故、従魔を連れていないのかと不審に思われる可能性がある。そう思われたところで問題はないといえばないが、そのたびに説明したり、はぐらかしたりするのは面倒なので、どうせなら別の従魔を作ってしまおうと考えたのだ。
「この辺には弱い魔物しかいないけど。戦力として期待してるわけじゃないから、まあ問題ないかしら」
「大丈夫。頑張って強くする!」
従魔を作ろうとした動機のわりに、レクトは従魔育成に前向きだった。従魔師ギルドでは振興のために従魔の武闘会を開催している。レクトはその話を聞いて興味を持ち、トップトレーナーになると燃えているのだ。
■
街のごく近くではすぐに討伐されてしまうせいか、魔物と遭遇することはなかった。仕方なく近くの森に向かう。森と行ってもオダイン樹海と比べればかなり小規模で人の出入りも頻繁だ。それでも、平原に比べれば魔物が多く生息している。
「ああ、いたわね」
「スライム?」
レクトたちが、最初に見かけた魔物はスライムだった。ベチャっとしたゼリー状のクリーチャーである。その溶解液は時間をかければなんでも溶かせるという話だが、よほど大型のスライムでなければ簡単に振りほどくことができるので驚異ではない。大概の小動物にも負けるほどなので、最弱の魔物といっていい。
「あれを従魔にするの?」
「試してみる。役に立つって聞いた」
スライムは従魔として割とポピュラーな存在だ。最弱の魔物だけに戦力としては期待できないが、何でも溶かせる溶解液は使いようがある。特にゴミ処理では大活躍するので、スライムと従魔契約を結べれば仕事に困ることはないそうだ。
とはいえ、レクトはゴミ処理の仕事をする気はないし、そもそもレクトの魔術ならばスライムの溶解液よりもよほど簡単に物質を分解することできるのだが。
レクトはスライムに対して契約魔術による従魔契約を試みた。異界魔術ではあるが、一般な契約魔術をギルドマスターに見せてもらって、そちらに寄せるように調整してある。表面的な効果はほぼ同じだ。そもそも、スライムは知能が低く魔術的な抵抗もほとんどない。失敗することはほぼないので、レクトの魔術もすぐに効果が表れた。契約魔術によってパスの繋がりができあがったのだ。このパスの繋がりによって従魔に指示を送ることができる。
「できた」
「そうみたいね」
レクトは試しにジャンプをするように指示した。指示を受けたスライムはのそのそと緩慢な動きで体を収縮させたあと、ふよんと10cmほど跳んだ。そして着地の衝撃でベチャっと地面に広がった。
「……弱い」
「まあ、スライムだしね」
「強くする……!」
レクトによるスライム改造作戦が始まった。といっても手始めに行うのは、異界魔術を使うための器を作ること。魂宿しで意思を宿した器物に魔術を使わせるために行った処理と同じようなものだ。人間相手には絶対に使うなとリンデやルナルに言われているが、従魔ならば問題ないという判断だ。下手をしたら記憶障害や廃人化するというのに、なかなか躊躇がない。ただこれが功を奏した。自我が希薄なスライムだからこそ成功したのかもしれない。ともかく、この改造によってスライムは異界魔術を行使する手段を手に入れたのだった。
「レクト……。アナタ、とんでもないことをしたわね」
「そう?」
スライムに魔術の器を作るという発想。これはルナルにもなかった。基本的に魔術の器は赤子か意思を宿した器物に使うという思い込みがあったからだ。
「これ、うまくやれば本当に強いスライムが育てられるかもしれないわね」
「最強のスライムを育てる!」
すでにレクトは最強を目指す気でいる。あまり興味がなかったルナルも新しい試みが気になるようで興が乗り始めていた。とはいえ、現状ではまだまだスライムは弱い。魔術の器はあるが、魔術を使うための魔力もなければ知性もないからだ。
「まあ先は長いでしょうけど。それはともかく、せっかく従魔にしたんだから名前でもつけてあげたら?」
「名前……。むむ」
レクトは唸りながらスライムを突いた。プニョっとした感触が指に伝わる。
「閃いた! 名前はプニョ!」
「あ、うん。まあ、いいんじゃないかしら」
いつもながらの安易なネーミングだが、わかりやすくはある。幸いスライムは名前をすんなり受け入れたようで、レクトは従魔契約で繋がったパスから喜びの感情が伝わってくるのを感じていた。
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