アイテムスペック
その後、レクトは特に詳しい説明をすることもなく、他のメンバーの武器に関しても魂宿しを実行し、強化していった。やり切った本人は満足げに鼻息をフンスと漏らしている。が、わけがわからないままに武器を強化された面々は、どう反応してよいのかわからず戸惑っている。普段使っていた武器が伝説級の品に生まれ変わったと言われても、すぐに実感がわくはずもなかった。
「伝説級……か。そう言われてもピンとこないな」
「そうだよなぁ。見た目もクレシェの杖以外は変化がねぇしな」
「ここまでピカピカ光られるとちょっと困るんだけど……」
「どうなったのか説明が欲しいわよね」
レクトのからの解説は望めないので、当然、ルナルが説明することになる。
まずはクレシェの魔道杖だ。
「キュリアス・ロッドのピカ。今は宝珠を光らせて意思疎通を図ろうとしてるみたいだけど、使っていれば何となく意思疎通できるようになるはずよ。そうなればピカピカ光るのも、少しはマシになるんじゃないかしら。たぶんだけど。能力としては、解呪魔術と治癒魔術、それと魔術の複写発動ね。所持者の発動した魔術を、ある程度忠実に再現して再発動するわ」
「ちょっと待って! 何なの、そのハイスペック! 魂宿しは、能力を自由に設定できるわけじゃないって言ってなかった!?」
「それはその通りよ。でも、比較的癖のなさそうな器物を見極めることはできるし、魂宿しした後から能力を付与することはできるのよねぇ……」
「そうなの!?」
魂宿しの技術を説明したとき、ルナルは能力を狙ってつけることはできないので、あまり便利ではないと話した。たしかに、魂宿し単体で使えばその通りなのだが、実は後から能力を付与することが可能だった。その技術と併用すれば魂宿しの利便性は格段に向上するのだ。そうなれば、当然、この世界の技術では作ることができないような、強力なアイテムが作れてしまう。
ルナルとしては明かすつもりはなかった。しかし、レクトがやってしまったからには、隠しても仕方がないと対応を切り替えたのだ。もちろん、白を切ることもできたのだが、レクトの気持ちを汲んだ形だ。姉代わりのルナルは、レクトに甘いところがある。
「ともかく、性能はそんな感じよ。ただ、それらをどう使うかはピカの自己判断だから、使って欲しいタイミングとかあれば、前もって相談しておいた方がいいわよ」
「相談って……。え、どうやって?」
「それは自分でどうにかしてちょうだい。元々の愛用品なら、相性は悪くないはずだし、なんとかなるわよ」
ルナルはそう言って、クレシェへの説明を打ち切った。次に説明するのは、フォルテの愛剣についてだ。
「パッショネイト・ソードのザン。強化方向としては、とにかく斬る方向に特化してるわ。たぶん、並の金属程度なら抵抗なくスパスパ切れちゃうから扱いには注意してね。それと、魔術とか霊体とかも斬れるようになったわね」
「……とんでもないな」
「まあ、概念とか次元とかを斬れるようにならなかっただけマシね。まだ常識の範疇でしょう。かろうじて」
「そ、そうか」
「あとは、剣を振ったりするとブゥンって鳴動するような音がするようになってると思うけど、それは鳴き声だから。うまいこと意思疎通を取ってちょうだい」
「剣が鳴くのか!?」
コーダの大盾。
「スタバーン・シールドのイッテツ。性能としては自動修復と耐術魔性能アップが付いたわよ。あとはサイズ変更能力と所持者の元に戻る能力もあるわね。他のに比べると、まだ普通ね」
「いや、普通じゃねぇだろ、どう考えても。サイズ変更能力ってなんだよ」
「盾の大きさが変わるのよ。小さくしたら持ち運びやすくなるし、大きくしたら広範囲も守れるわよ。重さも大きさに応じて変化するから、大きくしすぎたら扱えなくなるだけでしょうけどね」
「……これ、小さくしてからぶん投げて、敵の真上でめちゃくちゃ大きくしたらどうなるんだ?」
「そりゃあまあ……、潰れるでしょうね」
「やっぱり、やばいじゃねえか!」
フィーナの弓。
「ジェネラス・ボウのキーン。付与魔術が使えるようになっているわ。レクトの想定としては番えた矢に属性を付与したりすることだと思うけど、別に矢以外にも付与はできるはずよ。あとは、幻影体の生成能力があるわね」
「幻影体って何かしら?」
「幻影体は、実体のある分身みたいなものかしらね。本体に連動しているからバラバラに行動したりはできないんだけど。幻影体は五体まで生成できるようだから、一射撃ったらおまけに五射ついてくる感じね」
総評すると、どのアイテムも破格の性能を持っていた。この世界では他に類を見ない性能であり、まさに伝説級だ。おそらく、Bランク冒険者とはいえ、これほどのアイテムを所持しているのはフォルテたちだけだろう。
「どう考えても、性能に俺たちの実力が追い付いてないんだが」
「いや、こりゃあAランクでも釣り合わねぇだろ。それこそ神話とか御伽噺とか、そんなレベルだぜ」
「共同討伐でこんな武器使ってたら目立っちゃうよ!」
「幻影体も迂闊には使えないわね。いざというときの切り札ってことになるかしら」
フォルテたちにとっては武器性能の向上を喜ぶよりも戸惑いの方が大きかった。簡単に『性能が良くなった』で済ませていいレベルではないのだから、仕方がない。
「まあ、その辺は上手くやってちょうだい。それよりも、どうやって手に入れたかは話さないようにね。間違いなく面倒ごとに巻き込まれることになるから」
「ああ、それはわかってる。恩人に迷惑が掛かるような真似はしないさ」
ルナルが念のために釘をさすと、フォルテは真面目な顔で頷いた。こんなとんでもない武器が人の手によって作れると知られたなら、不心得者が出てくるのは間違いない。恩人を面倒ごとに巻き込むつもりはフォルテとしても望んではいない。とはいえ、どうやって誤魔化せばいいかを考えると少し頭が痛かったが。
「それにしもてさ。恩を返そうにも、またさらに恩が積まれて行ってる気がするよ」
「あんまり考えすぎなくても大丈夫よ、クレシェ。レクトが好きでやってることだからね。というよりも、それに見合う恩返しとか考えないほうがいいわよ。たぶん、無理だから……」
「だよねぇ……」
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