第34話 邂逅

「ひぇ~」と短い悲鳴を漏らしたのは翔だった。


「ジャブ、ジャブ、ジャブ、ジャブ……右ストレート」


「その呟きながら攻撃するの止めない? 普通に怖いよ?」


「……なんで攻撃してこないの? 女には手を出せない系の人?」


「普通に違うよ。俺の技は護身術だからね。自分から手を出す武術体系じゃない」


「ふ~ん、そう言って危険な技を狙っている」


「……まぁね。危険な相手から身を守る技なんて、危険な技になりがちだからね」


「女性に危険な事をするつもり?」


「攻撃しながら言う言葉じゃないよね、それ?」


「貴方、全部避けてる。わたし、こう見えてプロの格闘家」


「へぇ……そりゃ光栄だね」


「その余裕……むかつく!」


「ひぇ~」と再び悲鳴をあげる翔。 


 皆月リズムの蹴り。大振りのハイキックは避けられるのが前提。


 牽制目的の蹴りによって思惑通り。翔の上半身は、無意識に後方へ――――


「こうするとタックルが決まる」


 小柄なリズムのタックル。


「しまっ……」と最後まで言えず、翔の体が浮き上がる。


「護身術……組み合っても危険。だったら反撃する間も許さず――――一瞬で極める」


「――――ッ!?」と焦りを見せる翔。 しかし――――


 ドドドドドと重機が走るような足音が接近してきた。


「学び舎で、何を抱き合っているのですか! それも寝るだなんて!」       


 怒声! その声の主は鳥羽あかりだった。


 皆月リズムがいた場所に蹴りを放つも、すでにリズムは離れていた。


「あなたが狐の女王? 傾国の美女? イメージと違い過ぎる」


「なんですか! いきなり現れたクールビューティキャラは! 私とキャラが被り過ぎでしょ!」


「……どこも被っていないと思うけど?」


「キィー! 正論で人は殺せるのですよ、この殺人鬼め!」


「あなた、情緒不安定?」


「なっ! そういう貴方だっ……あれ? 何か混ざってる?」


「わかるの? わたしの中の将門が?」


「――――平将門? それに菅原道真?」


「なに将門? 今は退却するの、ここで?」


「簡単に逃がすとでも――――」


「簡単ではないのでしょうけど――――道真よろしく」


 次の瞬間、光が周囲を覆った。 そして、遅れてやってきたのは爆音。


 鳥羽あかりも、正道翔も、目を耳にダメージを受けて反応が遅れる。


 その間、皆月リズムは撤退を完了させたようだった。


 その場に残された2人は――――


「菅原道真……雷神の化身。悪霊として雷の力を得たと言われているけど……それを使ったのね」


 鳥羽あかり、彼女にしては珍しく忌々しい表情を見せていた。


   

  

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