「白銀の翼」は戦いの場に


 なんとかワイトを斃したあたしたちは、からっぽの塔をさらに下っていった。

 階層をいくつ下っただろうか。

 もはや魔物も出てこられないほど、塔の呪いはどんどん強くなり、あたしはなんども解呪の魔法を使わなければならなかった。


 そして――とうとう、ケイトリンさんが告げた。


「みんな……」


 あたしたちの顔を順に見ながら


「いよいよ、来たよ」

「わかるのか、ケイトリン」


 アマンダさんが聞く。


「ああ、あたしの『探知』によれば、ここから二階層下に、恐ろしいまでの魔力を発しているものがある。……正確に言うと、魔力と呪力の混合体だが。そして、塔もそこで終わりだ」

「そこが、第五の塔の、最上階ということか……」

「そうだ。あのとき見た塔の幻の構造と一致している」

「そこが隠し部屋なのか?」

「いや、たぶん、そうではないと思う。しかし、隠し部屋に至るためには、その部屋を制覇しなければならないだろう」

「その恐ろしいまでの魔力を発しているものって――」


 あたしは、扉の警告を思い出した。


しもべたる、黒き腐れの獣……」

「うん、おそらくな」


 あのとき、扉の古代文字は、あたしたちにこう告げた。


  しもべたる黒き腐れの獣

  あるじたる蒼き呪いの仮面

  ふれるべからず

  見るべからず

  聞くべからず


 と。

 ああ、とうとう、あたしたちは、ここまで来たのだ。

 時間をむだにせず、すばやく階層を降りる。

 そこもやはり、空っぽ。

 渦巻く呪いが、まるで目に見えるように濃い。

 そして、あと一階。

 あたしたちは、最後の降り口を前に、静かに立った。

 この下に、おそらく「黒き腐れの獣」が待ち構えているのだ。

 そして、さらにその先に、呪いの仮面が。

 しかし、不気味なくらいに、降り口からのぞく下の階層は、静まりかえっていた。

 あたしたちが様子をうかがっていると、


  ……チリン……


 かすかな音が、下から聞こえた。


「なんだ?!」


 サッと緊張が走る。


  ……。


 しかし、それきり、もうなんの動きもない。


「エミリア」


 アナベルさんが言う。


「魔力はまだあるか?」


 あたしは答えた。


「はい。まだ、あと何回かは解呪の魔法を使えそうです」

「ありがとう。エミリア。それでは、頼むよ」

「了解です、アナベルさん」


 そしてあたしは、解呪の魔法を詠唱し、


「光よ呪縛を断ち切るべし!」


 呪いによる状態異常を解除した。

 身体と心を締め付けていた感覚がふうっとなくなり、本来のあたしたちに戻るのが、はっきりとわかった。

 同時に、あたしは、気がついてしまった。

 今、解呪の魔法を使ったとき、これまでにない大量の魔力が消費され、あたしから抜けていくのが分かったのだ。

 解呪に、より多くの魔力が必要になっている!

 それほどの強い呪いが――。

 アマンダさんには、あと何回かは、なんて言ったけど。

 ひょっとして、魔力はもう、そんなに持たないかも……。

 不安がちらりと頭をよぎった。


「よし、行くぞ」


 そんなわたしの危惧には気づくはずもなく、アマンダさんが、強い口調で言う。


「全員、一気に飛びこむ。ここが勝負だ」


 アナベルさん、ケイトリンさん、そしてあたしがうなずく。


「はあああっっ!!!」


 われら『白銀の翼』は、「黒き腐れの獣」との戦いの場に、いっせいに躍り込んだのだ。


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