塔に充つるもの
「行こう」
ケイトリンさんにうながされ、歩き出した途端に、
「ん……?」
あたしは、なにか違和感のようなものを感じた。
とても微妙な感じで。
気のせいか?
最初はさほど気にせず、ケイトリンさんのあとをついていった。
でも、第二層への降り口に向かって歩みをつづけるうちに、そのおかしな感覚はどんどん強まっていき、そして、やがて、それはあたしだけのことではないと分かった。
「むぅっ?」
アマンダさんが、とつぜん声をあげ、
「あっ!」
あたしは、びっくりしてしまった。
なんと、あの超絶の身体感覚をもつアマンダさんが、つまづいたのだ。
アマンダさんは、そのまま、とんとんと、前にのめってたたらをふんだ。
ふりかえったケイトリンさんが、あり得ないものをみた、という驚愕の表情をしている。
「どうしたんだ、アマンダ?! いったい、何があった? なにか居たのか?」
ケイトリンさんが緊張した声でたずねる。
しかし、何も特別なものは、見あたらない。
何の変哲もない、ただの床で、アマンダさんは足を取られたのだった。
「ううむ……」
その場に立ち止まったアマンダさんの表情が硬い。
そして、
「アマンダだけではないぞ。わたしもだ……」
と、後ろからアナベルさんが言う。
「さっきから、からだの動きが、なにかおかしい……」
「えっ、アナベルもか?」
「あの……」
あたしも続いていった。
「あたしも、変なんです……思ったように身体が動かないというか、頭で思ったのと身体の動きがずれるというか……なんだか、すごく自分が不器用になったような……」
まあ、もともと不器用なあたしではあるけれど、いつに増して動きがよくないのだ。
「……ケイトリンは、なんともないのか?」
アマンダさんが聞く。
「ああ……」
ケイトリンさんが、その場でくるりととんぼを切って
「あたしは、なんともないぞ。いつも通りだ……待てよ? ということは……」
そう言って、ケイトリンさんは、あたしたちを半目で見透かすように見た。
「これは……」
しばしの沈黙の後、
「……やられた……」
険しい表情で言う。
「
と、アマンダさん。
「そうだ……『鑑定』を使った。アマンダ、アナベル、エミリア、三人ともに、呪いによる状態異常がかかっている」
ひいいい!
「やはりか……。ケイトリンは、ヴァルサーの鍵をずっと身につけているからな、護られていて無事なわけだ」
「でも、どうして、いつのまに呪いが?」
「うかつだった……。おそらく……この塔の中の領域は、強い呪いに満ちているのだ。こうして中にいるだけで、じわじわ汚染されていくんだろう」
ケイトリンさんが唇をかむ。
「エミリア」
と、アマンダさんが冷静な声でいった。
「解呪の魔法を使ってみてくれ。ケイトリン以外に、かけてほしい」
「はっ、はい」
あたしは、解呪の魔法を詠唱する。
「四大よ光の網と剣もて善なるものを縛る忌まわしき絆をとらえ断ち切れ 解呪!」
詠唱によってうみだされた、輝く光の網が、あたしたち三人を、ふわりと包む。
「光よ呪縛を断ち切るべし、えいっ!」
手刀を切り、アマンダさん、アナベルさん、そしてあたし自身のまわりを祓う。
「おっ」
「うむ」
「はああ……」
なにかがブツリと断ち切られ、その瞬間に、からだがふっと軽くなるのが分かった。
アマンダさんがうなずいて
「うむ、とりあえず、戻ったな」
ケイトリンさんも、あたしたちを再度『鑑定』し、
「うん、状態異常は消えている。でも……」
「そうだ。ここにいる限り、時間が経てば、またじわじわと異常が起きてくる」
「しかも、おそらく、隠し部屋に近づくにつれて、呪いの濃度は高まる。いったい、この先どんな異常がおきてくるかもわからない……」
アマンダさんは少し考えて言った。
「ケイトリンの『鑑定』で状態をチェックしながら、定期的にエミリアの解呪の魔法を使って、進んでいくしかないな」
あたしを見て、
「ここからは、エミリアの魔力は可能な限り温存しながら進もう。頼むぞ、エミリア」
ケイトリンさんが
「エミリア、さっきみたいに、あたしらを助けようと魔法使わなくていいからね。気持ちは、とってもありがたいけどさ。あんたにかかってるんだから。ここは、ケチっていこうよ」
アナベルさんも、その言葉に大きくうなずく。
「はい」
あたしは答えた。
「そうします。いきおいで、うかつなことをしないように、気をつけます……」
ああ、ますますあたしは責任重大だ……。
でも、あたしの魔力は、こんな調子で、いったい最後まで持つんだろうか……?
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